艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

先月(2015.6)読んだ本 『A 3』森達也 など 

 今年の梅雨は比較的過ごしやすかったように思う。そのせいで制作の方もまあまあ順調だったというか、新しく大きな作品2点に取りかかったこともあり、あまり読書に慰安を求める度合いも少なかった。その結果、読了したのは下記の10点。

 

①『ぼくには数字が風景に見える』 ダニエル・タメット  △

 2014.6.13 講談社文庫 【思想】

 大学に勤めるようになって何年かしたころからLD(学習障害)とか鬱とか、アスペルガーとか、拒食症とか、それまであまり聞いたことのない障害のことをにわかに耳にするようになり、実際そうした学生の対応に追われるといったこともあった。FD(教育方法改善推進運動)の一環としての教職員対象の講演会に出席し、何冊かの関連書も必要に迫られて手にした。さまざまな症状と定義があることはわかったが、その実態と対応方法はよくわからないということがよくわかった。私の今の本音でもある。その中で実際にアスペルガー症候群であり、サヴァン症候群でもあり、癲癇でもあり、それら全部をひっくるめて自閉症スペクトラムの患者である著者が自身の手で書いた本書は、著者の体感する世界、実際に見えているなんとも奇妙な世界をかいま見せてくれる実に面白い本である。ただ残念なことは、アマゾンの読者評などに「偽アスペルガー疑惑」とか「嘘の天才」といったコメントが出ており、なんとも嫌な気分にさせられる。ただし実際のところどうなのかは私には判断できないだけに、よけい釈然としない。

 

②『猫背の目線』 横尾忠則

 2010.7.8 日経プレミアシリーズ 【美術】

 著者は言うまでもなく日本を代表するイラストレーターであり画家である。著作も実に多い。基本的に素直に思ったことをそのまま文字にするという姿勢なので、年代、内容によっては矛盾することもしばしばあるが、全然気にしないのだろう。私も30冊ぐらいは持っていて、その半分ぐらいは読んでいる。やはり美術に関連するものはそれなりに面白いものが多いが、UFOとか精神世界関係のものは全く読む気がしない。本書は健康と老化に関する文が多いが、まあ可もなく不可もなしといったところ。

 

③『ゲーテさん こんばんは』 池内紀  △

  2005.11.25一刷2007.3.25三刷 集英社文庫 【文学】

 これだけ脱力して文豪を語ると言うのもすごい。「文豪」と聞いただけで敬して遠ざけがちだが、少しはその距離が縮められるだろう。70歳を過ぎて17歳の少女にプロポーズした(当然?実らなかったらしいが)というのもすごい。第五回桑原武夫学芸賞受賞とか。

 

④『A 3 (上)・(下)』 森達也  

 2012.12.20 集英社文庫 【社会・宗教】

 オウム、東日本大震災原発従軍慰安婦などは語りにくい、真正面から向かい合いにくい問題である。真正面から向かい合っていると信じている人ほど、ある種のポピュリズムの弊に陥いる傾向、可能性が高いことに無自覚なのが悩ましいところだ。本書はオウム裁判の取材を通じて静かに確実に変容してゆく「推定無罪の原則」のなし崩し的崩壊や、原告の訴訟能力の有無の判断についての不当な対応、等、裁判制度の根幹にかかわりつつも、それを通して、今確実に進行しつつある種の問題を指摘している。それは昨今の憲法と「戦争法案」をめぐる解釈と同じ位相にある。その意味で数多くあるオウム関連の本の中でも特筆して読まれるべき本だと思う。著者は、今、私が信用している数少ない評論家というか、ジャーナリストの一人。

 

⑤『もたない男』 中崎タツヤ  △

  2015.6.1 新潮文庫 【漫画】

 何でこんな本、買ったんだろう。しかも新刊で。中崎タツヤの漫画はわりと好きだが、積極的には見ない。内容はけっこう面白いが、別に読まなくても差し支えない。~こういうこともある。

 

⑥『ひとつとなりの山』 池内紀 【山岳】

 2008.10.20 光文社新書 

 これもまあ読まなくても一向に差し支えない本だが、ずいぶん前から書棚で未読のままだったので、先月の『海山のあいだ』に引き続いて読んだまで。ほんの少し山行計画上、参考になりました。

 

⑦⑧⑨『怨讐星域 Ⅰ ノアズ・アーク』『怨讐星域 Ⅱ ニューエデン』『怨讐星域 Ⅲ 約束の地』 梶尾真治

  2015.5.25 ハヤカワ文庫 【SF】

 息子に肩の凝らない面白いファンタジーを貸せといったら持ってきたもの。一冊目でほぼ先が見えた。SFである。ジュブナイルである。既読感あり。世に新しきものなし。エンターテイメントもたまには良いが、もう当分いいや。

 

⑩『民芸美礼賛』 広隆群

  1936.8.25 建設社 【美術・骨董】

 買ってから19年目にしてようやく読了。この本を買った頃は民芸や骨董について関心をもっており、その手の本をずいぶんと買い、読んだ。本書を読まなかったのは、単にあまり面白くなさそうだったからで、実際読んでみてもそう面白くはない。ただし戦前のまだ民芸運動が生きていた(?)頃のものであるから、民芸宗といった一種の新興宗教的熱が感じられるところが、今になって見れば少し興味深い。書棚にはまだまだこの分野の未読書がけっこう残っているのだ。        (2015.7.28)

 

 評価は6段階 あくまで筆者の主観的判断です

 ◎=おもしろい、傑作 =なかなか良い △少しおもしろい 無印=可もなく不可もなし、普通  ▲う~ん、どうなんだ ×=ダメです