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艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

美術館探訪録―2015年 1.国内篇

 以下に記すのは昨年2015年に日本国内で見た展覧会である。基本的に入場料を払って見た美術館・博物館での展覧会だが、一部には無料のものもある。寺院・教会・遺跡等も含む。一般画廊の個展等は含まない。回数で言えば29回。

 私はごく簡単なものではあるが、1973年以来見た全ての美術館での展覧会の記録をつけている。29回という数字は、学生としてあるいは引率教員として古美研*「古美術研究旅行」という名の授業)のように集中的(半)強制的に見た機会をのぞけば、2002年と同数で、最多である。よっぽど暇だったのかと言われそうだが、暇もたしかにあったが、気になる展覧会が多かったのだ。ちなみに43年間の総計は、海外も合わせて2015年末で1022回。数え方や記録不備もあるから厳密には正確ではないが、おおよそのところ。

 29回というのは平均すればたかだか月に二、三回にすぎないから、それほど大した数字でもないが、義理情実ぬきで、作家としてのおのれの肥やしとして見に行くとなると、なかなかけっこうな数字だと思う。わざわざ高い入場料交通費を払って、ほぼ一日を費やして見るのは、当然、味わい、学び、参考にするためである。したがって見た後に、それらを咀嚼消化する時間が必要となる。むろん選んで見に行ったものばかりではあるが、必ずしもすべてが良かった、参考になったということにはならないものだ。仮に月に二三度のペースで素晴らしい展覧会ばかりが続いたら、消化不良になる。月に良い展覧会を一回程度が適量なのではないかと思うが、幸か不幸か世界的にも珍しいほど美術館博物館が多い(その内実はここでは問わない)東京に住み、また近年は経済的にさほど好調とも思われぬにもかかわらず、質量ともに二、三十年前に比べても膨大としかいいようのないほど数多くの展覧会が開かれている。月に一回程度が適量などと言ってはおられぬというか、もったいないというか、ついつい真面目に出かけてしまうのだ。

 ということで、以下一覧。

 

*「  」内は展覧会の正式名称。その右の文言はサブタイトル。【 】はざっくりとしたジャンル

1.「ウィレム・デ・クーニング展」 【洋画】

  ブリジストン美術館/1月7日

2.「小畠辰之助」吉祥寺のモダニスト 【洋画】

  武蔵野市立吉祥寺美術館/1月12日

3.「表現の不自由展」 消されたものたち 【多・現代美術】

  ギャラリー古藤/1月27日

4.「小山田二郎」 生誕100年 【洋画】

  府中市美術館/1月29日

5.善光寺 (前立本尊御開帳) 【寺院】

  4月11日

6.7.松本城+開智学校 【城郭・建築・教育】

  4月12日

8.「マグリット展」 20世紀美術の巨匠 13年ぶりの大回顧展 【洋画】

  国立新美術館/5月13日

9.「マスク展」 【OA/プリミティブ】

  東京都庭園美術館/5月27日

10.「華麗なる江戸の女性画家たち」山種美術館実践女子学園香雪記念資料館連携

  企画 実践女子学園創立120周年記念特別展 【日本画

  実践女子学園香雪記念資料館/6月5日

11.「日本・ベルギー国際版画交流展(前期)」 【版画】

  宇フォーラム美術館/6月20日

12.「鴨居玲」 踊り候え 【洋画】

  東京ステーションギャラリー/7月2日

13.「ヘレン・シャルフベック」 魂のまなざし 【洋画】

  東京藝術大学大学美術館/7月15日

14.「丸亀ひろや/宮嶋葉一」 -Painting- 【洋画】

  カスヤの森現代美術館/7月25日

15.「遠くて近い井上有一展」 【書】

  菊池寛実記念 智美術館/7月25日

16.「田能村竹田」 没後180年 【日本画

  出光美術館/7月31日

17.「斎藤与里のまなざし」 生誕130年記念 中村屋サロンの画家【洋画】

  中村屋サロン美術館/8月3日

18.「パウル・クレー」 だれにもないしょ 【洋画】

  宇都宮美術館/8月25日

19.「ダリの遊び」 【洋画・彫刻】

  諸橋近代美術館/8月26日

20.「サイ・トォンブリー」 紙の作品、50年の軌跡 【洋画】

  原美術館/8月29日

21.「常設展」 【民芸】

  大津絵美術館/10月3日

22.「きものモダニズム」 大胆!モダン!とっておきの銘仙100選

                        【染織・デザイン】

  泉屋古博館分/10月3日

24.「ペインティングの現在」 4人の平面作品から +常設展 【絵画・他】

  川越市立美術館/10月31日

25. 常設展 【歴史】

  西の正倉院百済の館/11月23日

26.常設展 【文学】

  若山牧水記念文学館/11月23日

27.「藤田嗣治資料 公開展示」 【洋画】

   東京藝術大学大学美術館/12月3日

28.「村上華岳 ―京都画壇の画家たち」〈裸婦図〉重要文化財指定記念

                          【日本画

  山種美術館/12月17日

29.「水 ―神秘のかたち」 【日本美術】

  サントリー美術館/12月28日

 

 けっこう見ている割には堪能したという印象は薄い。年末の朝日新聞では毎年恒例の「回顧2015 美術」で高階秀爾、北澤憲昭、山下裕二がそれぞれの「私の3点」をあげているが、私は今年もまた、それらを一つも見ていない。ほぼ毎年そうである。迷って行かずじまいで若干後悔したものもないではないが、しょせん一期一会。美術展なぞ各自が自分の趣味なり感性なり思想なりで選べばよいのだ。といってこうしたベスト○○を識者に挙げてもらうのも、自分の位置を確認するという意味ではあながち無駄でもない。ただし前提として、私はそうした識者専門家なる者の目というものをあまり信用していないということもある。ちなみに高階秀爾が同日発売の朝日新聞の「私の3点」と毎日新聞の「この1年 美術」で挙げている3点が全く違うというのはどういうことなのか。同じ趣旨の企画記事であるにもかかわらず。

 

 ともあれ上記の中で見て良かったというか、印象に残っているのは18.「パウル・クレー」がベスト。20.「サイ・トォンブリー」が2位。次いで 8.「マグリット展」、23.「きものモダニズム」、28.「村上華岳 ―京都画壇の画家たち」といったところ。むろん客観性云々ではない「マイベスト」である。

 「パウル・クレー」については、この40年の東京および周辺での展覧会はほとんど見ている(はず)。今回もずいぶん前に見た作品も来ていたが、何せ好きな画家だから何度見ても良いのである。ここのところ、彼の制作をめぐって新たな解釈も色々と出てきており、その点に関する展示としても面白かった。「サイ・トォンブリー」については以前このブログに書いている。それについての友人とのやり取りの後日談もなかなか楽しかった。「マグリット展」についてはもう見なくてもいいかなと思っていたところ、ある友人に奨められて及び腰で見に行ったのだが、なかなか良かった印象がある。にもかかわらず、今イメージが浮かんでこないのはなぜだ?

 「きものモダニズム」は、ここ数年あわい興味を持っている大正前後のモダニズム、竹久夢二やそれにかかわる風俗意匠としての和服=銘仙の実物を初めてみる機会となった。素晴らしいということでもないのだが、実物を見る、確認するということの楽しさを味わえた。「村上華岳 ―京都画壇の画家たち」については、華岳をまとめて見るのは初めてだと思っていたが、帰宅後確認したらなんと31年前に国立近代美術館で見ていた。どおりで既視感があったわけだ。華岳も良かったがその周辺の京都画壇の画家たちが面白かった。一応ある程度は知っているつもりだったが、入江波光を始めとしてまだまだ魅力的な画家がいることを再認識。関連して加藤一雄の著作(『雪月花の近代』『京都画壇周辺』等)をひもとき始めている。こちらもかなり魅力的だ。

 

 期待はずれというか私としては面白くなかったのが1.「ウィレム・デ・クーニング展」、2.「小畠辰之助」、17.「斎藤与里のまなざし」。

 「ウィレム・デ・クーニング展」は悪くはなかったのだが(実際すごく良かったと、私が信用しているある作家が言っていた)、私の期待が大きすぎたのだろう。規模も小さかったし。9月にアメリカで何点か見たが、そちらはやはり良かった。

 「小畠辰之助」、と「斎藤与里のまなざし」については面白くなかったというのは少々酷かもしれない。いずれも見るのは初めて。小畠辰之助は名前すら知らなかった。やはり結果として美術史上で影の薄い作家というのは、それなりの作品しか残せなかったということでしかないのだろう。日本の洋画家の標準的な辛さが見えてしまう。中村屋サロン美術館という美術館があるのもこの機会に初めて知った。なお中村屋相馬黒光は大正期の美術・文化を考える上で抜きにすることのできぬ存在。その意味でもまあ行った意義はあったというべきであろう。

 

 ついでに記しておくと、見そこなって残念に思っているのが、今記憶しているのでは「没後100年 五姓田吉松 ―最後の天才―」展(神奈川県立歴史博物館)。知ってはいたのだが今現在の自分の興味・志向からは外れており、そこでなおかつ見に行くというのがなにか一種の教養主義というか、お勉強的な感じがして、結局行かなかったのである。そのあたりをどう考えるか、難しいところではあるが、まあ、しかたないか。

 さて2016年はどんな展覧会を見にいくことになるのだろうか。

                          (記2016.1.7)