何となく復活の兆しを見た昨年をうけて、今年の目標もまた「月に二回の山行」と、ひそかに自信を隠して打ち上げたのだった。だが、先にブログに書いたように(「老醜酔惨~思いっきりコケた」)、正月早々に転んでひざを強打し、しばらく山どころでなかった。「月に二回の山行」は、はなから挫折の呈である。これまでなら、そのままずるずるといってしまい、結果、わびしさと敗北感に苛まれるところであるが、今年は少し違う。ささやかではあるが昨年の実績に裏付けられた小さな自信があるのだ。このままでは引きさがらない、何とか一月中にせめて一度は行くのだと、ひざの回復を日々待っていた。幸い回復は順調だが、試しの裏山散歩を二三度してみても、何だかはっきりとはしない。少し前に降った雪のことも気にはなる。しかし、えい、ままよ、無理をしなければ何事もできないのだとの、最近身につけた信念に基づいて行くことにした。
予報では一月中で晴れるのは28日木曜日が最後。多少気を使って、あまり高くなく、時間もそれほどかからない、あまり厳しくない所、ということで高川山にする。
高川山は昔からよく歩かれている人気の高い山である。8年前の春に一度、女房を含めたおばさんグループと一緒に、富士急禾生駅から登ったことがある。そのグループとはそのころ何度か一緒に行を共にさせてもらい、微妙に山歩きの質というか、幅を広げることができ、感謝している。その時も計画から何から全てお任せで、それなりに楽しい山行だったが、その後、大月駅へと北東に伸びる尾根と、南西にある大岩・屏風岩というのが気になりだした。
↓ 取り付きの手前、桂川にかかる橋の上から。正面、高川山。右鶴ヶ鳥屋山
北東の尾根は富士急線沿線の山に行くたびに最初に右手に見える低い尾根だが、遠目にも何となく風情が感じられるのだ。しかしわざわざそれを目的に行くというほどのところとも思えず、そもそも国土地理院の5万図、2万5千図には破線が記されていない、つまり道がないということになっている。部分的に踏み跡程度はあるだろうが、ある程度以上は藪コギになるだろうなと思っていた。ところが最新の「山と高原地図」をよく見ればしっかりと実線が入っているではないか。大岩・屏風岩方面は破線(難路)だがコースタイムも記されている。問題ない。あとは雪のことが気になるが、これはまあ行ってみなければわからない。なにはともあれ、行くのである。 五日市駅発8:04、大月駅下車9:47。近くのコンビニで食料を仕入れて10:00出発。登山口の尾根の取り付きから雪。スパッツを付け、歩きだす。人はけっこう入っているようでしっかりトレースがついている。むしろ雪の無い時より歩きやすい。
↓ 取り付から雪
すぐにむすび山と記された尾根上のピークに着いた。「大月防空監視所跡」と書かれた標識と石組みされた穴がある。旧陸軍のいわゆる戦争遺跡である。周防大島の嘉納山や小笠原母島の乳房山だったかにもこうした戦争遺跡、銃座や砲台跡があった。ラオスのルアンパバーンでも見た。
↓ むすび山=大月防空監視所跡
桂川と笹子川にはさまれた尾根は、細くゆるやかに伸びており、意外なほど気持が良い。なだらかな登降を繰り返し、少しずつ高度を上げてゆく。最初のうちはときおり地肌が出ているところもあるが、北面とあって、ある程度以上からはずっと雪。左前方には富士山が優美な大きさを示している。
↓ こんな感じ
↓ 優美なる山=Mt.FUJI
512.9mピークを11:15に通過し、天神峠に11:45着。こぢんまりとした峠。二体の馬頭観音がある。観音の頭上の馬頭の形が愛らしい。
↓ 陽だまりの馬頭観音
尾根は徐々に太くなり、傾斜も増してくるが、慎重に行けば特に問題になるところはない。ただ、氷化というほどでもないが、よく踏み固められたトレースのせいでときどきスリップしやすい。先行者は軽アイゼンを付けていたが、ちょっとその必要を今回は感じてしまった。今後の課題だ。ところどころに猪が掘り返した跡がある。猪も生きていくのはたいへんだ。途中二人の単独行者と行き違う。共に私より若干年上かと思われる男女。この日出会ったのはこの二人だけだった。
↓ 結構傾斜のきついところもある
↓ イノシシが掘り返したところ。あちこちにあった。
高川山山頂975.7m、13:55着。無風快晴。360度の大展望。どの山も北面にはうっすらと雪をまとっており、その分いつもより少し美しい。ひたすら気持がいい。なぜか前回の山頂の記憶はまったくない。ふと気づけば三角点が抜けて横たえられていた。
↓ 高川山山頂の石まら(?)。右下に横たわっているのが三角点の票石。
↓ 山頂から見る大菩薩連嶺
小休止ののち出発。ここから先、大岩・屏風岩方面へのルートが問題だった。この山に登る登山者の大多数は、富士急禾生駅からか初狩駅からの女坂ルート・沢ルートをとる。大岩・屏風岩方面に足を延ばす者はあまり多くない。ましてこの雪のある時に、先行者のトレースを期待できるかどうかなのだ。雪が無ければかすかな踏み跡を辿ることもできるが、雪が付くとそれが難しくなる。さらにこの山域はちょっとした岩場や痩せ尾根がところどころにあり、その魅力と共に危険性も増している。
体調、時間も勘案しながら、場合によっては沢ルートから初狩駅へ下山もありえるなと思いつつ、初狩駅へのルートを下り始める。ほどなく左への分岐があった。細々ながらもしっかりとした踏み跡がトラバースぎみに続いている。それがどこまで続くかはともかく、とりあえず一安心。
↓ 羽根子山付近のやせ尾根。左右は切れ落ちている。
羽根子山896m、カンバ沢の頭(神馬沢山)あたりは部分的に左右が切れ落ちた痩せ尾根になっており、スリルがある。こういったところは大好きで、非常に楽しい。木が多いのであまり不安感はないが、慎重に進む。鍵掛峠、15:35。大岩へも踏み跡は続いている。名の由来と思われる大きな岩を左に見たすぐ先が頂上(15:55)。休みもせず右に進み、登り返せば分岐があり、その左先が屏風岩(山)。確かに南西側がちょっとした絶壁になっている。頂上には一本の松の木。どことなくヨセミテのセンティネルドーム(とその頂上にかつて生えていた松の木―アンセル・アダムスの写真で有名)を思い出させる。気持の良い頂上で眺望絶佳だが、そろそろ日も山の端に落ちようとしている。
↓ 大岩山の大岩。
↓ 写真に写っていない左側に屏風岩の絶壁がある。
↓ 参考:“Jeffry Pine - Centiner Dome” by Ansel Adams ま、違いますけどね。
小休止の後、下り始めればすぐに三角点のある正式(?)な屏風岩山頂上に至る。あそこが屏風岩でここが屏風岩山。足を止めることもなく、下りを急ぐ。うす暗くなり始めた中、それなりにふんいきのある尾根を一気に下り、最後までトレースに導かれて登山道入り口の標識のある車道に辿り着いた。16:50。駅まで10分。その最後に凍結した舗装道路ですっ転んだのは、まあ愛嬌というものであろう。
↓ 山の端に陽が沈む
↓ 薄暗くなりはじめてきた
あまり期待もしていなかったルートだったが、適度な積雪とトレースのおかげで、変化のあるルートを大いに堪能した。充実した一日となった。これをきっかけにきっと年度目標の「月に二回の山行」を順調に軌道に乗せることができるだろう。 (記2016.1.31)
【コースタイム】1月28日
大月駅10:00~むすび山10:37~512.9mピーク11:15~天神峠11:45~高川山山頂13:55-14:15~羽根子山896m14:40~鍵掛峠15:35~大岩(山)15:55~屏風岩16:15~車道・登山口16:50~初狩駅17:00