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艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

百蔵山から扇山へ(2016年3月1日)

 「月に二回の山行」という年度目標は、一月二月を通じて、早くも崩壊しつつある。

 しかし、「12ヵ月×2回=年間24回」と読み替えれば、何の、まだ充分可能性はある、ということで気を取り直して、百蔵山から扇山へと歩いてきた。

 百蔵山と扇山はその位置が良い。中央線下り列車が四方津、梁川を過ぎ、鳥沢、猿橋に至ると右手北側に連なって、なかなか立派な姿を見せる。二つの山は連なってはいるが、それぞれそれなりに独立した山容で、一瞬こんな良い山があったっけ?と思わせる。

 ただしそれゆえに昔からポピュラーな山であり、ハイキングコースとして今なお人気がある。駅から歩いて登れるのも魅力である。たしか愚息も高校山岳部で登ったことがあるはず。しかしその人気ゆえに、私自身は長い間あまり食指をそそられなかった。だが最近、上野原、大月、笹子周辺の山を歩いていると、次第にその近辺では登っていない山がなくなってくる。その赤線の空白部にこの百蔵山と扇山があるのだから、そろそろ登らないわけにはいかない。

 

 弥生三月一日、例によって4時間睡眠で7時半に自宅を出る。猿橋駅9:45着。バス便もあるが、のんびり歩く。

  ↓ 鳥沢駅のホームから見る左、百蔵山、右、扇山。

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 桂川を渡って奈良子川の手前の高速道路の下に道祖神、馬頭観音等の石仏がまとめて置かれている。以前あちこちに在ったものを、区画整理(?)でここに集められたもの。こうしたものは持ち去られて骨董屋に並ぶこともけっこう多かったのである。甲斐、相模は石仏の多いところだが、中でもここ桂川一帯は丸石神信仰も含めて、特に多いところだ。なかなか良い味わいだ。別の場所では金神様(=金精≒石マラ)もあった。これはちょっと珍しい。

 

  ↓ 石仏群像。

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 ↓ 日輪月輪のある山王権現が好きです。下は三猿。

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 戸並入口のバス停から山へ向かうが、欲しい所に指導標がなく、福泉寺の墓地に迷い込み、若干のタイムロス。正規ルートに戻り、しばらく舗装された林道を歩く。それを嫌って左から合流する細いがよく踏まれている路に入ってみるが、これは間もなく猪よけの柵で囲まれた林間の畑に辿り着いてしまった。またしても若干のロス。今日は勘が悪いか?元の舗装林道に戻り、少し行けば、何のことはない。指導標がある。笹藪の中を過ぎれば、あとはよく踏まれた歩きやすい路。坦々と歩く。その坦々がハーハーとなり、ゼーゼーとなり、ヒーヒーとなる頃に一本というペース。やはり中三週間近く空くと、きつい。この尾根、なぜか倒木が多い。

 11:45金毘羅宮着。見れば中には真っ赤なペンキ塗り(?)の不動明王。手前に白面の小仏像が何体か鎮座しておわす。あれ?金毘羅って海の神で本来はガンジス河の鰐(日本では蛇体)ではなかったっけ?帰宅後確認してみると、「神仏習合の神であり、本地仏不動明王毘沙門天十一面観音など諸説ある(Wiki)」との由。ああ、そうですか。作は正式の仏師のものとも思えないが、素人にしてはなかなか上手に作られている。白面の小仏像もちょっといい味を出している。

 

 ↓ 金毘羅宮。手前の小仏像五体は地蔵か?

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 金毘羅宮から少しばかりの急登を終えれば、なだらかな尾根筋となり、歩きやすい道が続く。この山稜は広葉樹と植林の針葉樹と合いまった林相だが、比較的広葉樹が多いのがうれしい。針葉樹も珍しく松の木が多いためか、わりと明るい印象である。少しぐらいはあって欲しいと思っていた雪は全く無い。

 ↓ こんな感じ

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大同山907mをすぎれば(12:35)ほどなく百蔵山山頂1003.4mに着いた。おお、ここは一応1000mを越えていたのか。やはり1000mを越えていると、ちょっとうれしい。

 

 ↓ 百蔵山山頂

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 ここも例の「秀麗富嶽十二景」の一つ。確かに美しい。でもこの時期としてはちょっと雪が少ないような気もする。

 

 ↓ 今月の富士山。正面が吉田大沢。その昔40年前の11月の末にあそこを登ったのだ。

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 百蔵山からは、直下の急下降以外は、おおむねなだらかな登降が続く。

 ↓ こんな感じ

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 ↓ 途中で見かけたオブジェ。タイトル「よじれともたれ」

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北側には茫洋と大きな、巨大な鯨のような権現山から麻生山への山稜が横たわっている。これも今年登りたい山のひとつである。久保山をすぎればほどなく広い扇山山頂1137.5mに着いた(15:30)。

 ↓ 扇山山頂

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 ↓ 扇山山頂より北面の権現山方面

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 百蔵山もここ扇山も、有名な割には山頂は思っていたほどは荒廃していない。ぎりぎりオーバーユース手前といった感じで、少し救われる思いがする。

 ただし一つだけ不快なことがあった。それはここにもあった「秀麗富嶽十二景」の解説パネルに記された(刻みこまれた)落書きである。一つの山頂に従来からの山名表示板と「山梨百名山」の山名表示板が既にあるところに、さらに「秀麗富嶽十二景」の山名表示板とその解説パネル(写真・解説付)が設置されているというのは、やはり美しくない。多すぎる。確かに私も「秀麗富嶽十二景」については、一部その意義を認めつつも、ある意味では批判的である。これについては、以前に本ブログで書いた(「地下足袋をはいて登った奈良倉山+おまけの大白沢」)。しかしだからといってこの写真に見られる行為はいただけない。記された個人名はどういう関係なのか、どういういきさつがあったのかわからないが、明らかに卑劣な個人攻撃である。記された個人への怨恨というよりも、おそらく行政当局による「秀麗富嶽十二景」に対しての不満なのではないかと想像されるが、なんとも嫌な感じである。

 

 ↓ 問題の解説パネル

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 たしかに山中にこうした写真入りやイラスト入りの解説パネルが設置されていることはままある。そしてそれらの多くが数年と経たないうちに劣化して、例えば判読不能な、景観を汚すだけの不快なゴミとなっているケースは多い。耐用年数のすぎたこうした設置物は当初の設置者が撤去してほしいと思うのは私だけではあるまい。写真下部には判読しづらいが「ごみ自分でもちかえれ」と記されている。

 

 そんな人間世界の汚濁をよそに、富士はすでにその姿の大半を翳りの裡に沈めようとしている。

 

 ↓ 今月の富士山 その2 「人間世界の汚濁をよそに、富士はすでにその姿の大半を翳りの裡に沈めようとしている」

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 15分ほどして下山にうつる。犬目丸から萩ノ丸をへて大野貯水池まで足を延ばしたいところではあるが、時間の事もあり、ここは予定どおり素直に山谷への路を選ぶ。午後遅い陽を受けた、桂川対岸の高畑山から高柄山への山並がじつに美しかった。日本ならではの穏やかな美しさである。

 

 ↓ 美しい日本 右、高畑山

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途中で「女六夜」と読める石碑を見かけた。「女六夜」とは聞いたことがない。女ではなく廿の異体字で「廿(二十)六夜」と読むのか?それなら月待ち講=二十六夜待ち講でわかるが。この近くには二十六夜山という名の山が二つあるが、さて実際はどうなのだろうか。気になる。

 ↓ 「女六夜」?「廿(二十)六夜」?

 

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 下山は特に問題もなく、山谷集落に16:37に着いた。通りがかりのおじさんにあいさつがてら駅への道を尋ねると、「ずいぶん遅い時間だねえ」と言われた。そうか、俺はやはり普通の登山者と比べても行動時刻が遅いのかと、今さらながら思うが、仕方がない。「朝が苦手なので時差登山してます。おかげで人とあまり会わなくて静かに歩けます。」と答えたら、笑っていた。笑いながら、丁寧に近道と絶好の富士のビューポイント(時刻が遅すぎるらしい)と御自慢らしい寒桜(季節が少し早すぎるらしい)並木の所在を教えてくれた。それぞれ良かったです。ありがとう。あとは小一時間鳥沢駅まで歩くだけだ。

 

 ↓ 今月の富士山 その3 おじさんおすすめのビューポイントより

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 という感じで、今回の山行は終了した。出会ったのは単独行三名と二人パーティ一組、計五人。

 百蔵山、扇山は悪い山ではない。むしろ良い山だといっても良いのだが、なんとなくとらえどころのない、茫洋とした、個性の薄い山、といった印象が残る。まあ、それがこの山の個性だと言うこともできるだろうが。

 【追記】

 帰宅後、何となく調べていたら以下のような記述があった。

「山の名と近隣の地名から、桃太郎伝説がある。隣の山の扇山のふもとに犬目集落(上野原市)があり、桂川沿いに鳥沢集落、猿橋集落がある。仲間をそろえた桃太郎は、九鬼山に鬼退治に出かけた、というもの。」(ウィキペディア「百蔵山 桃太郎伝説」)

 ちなみにこの鬼は近くの岩殿山に住んでいたという話もある。

 例によって典拠が示されていないから伝説の存在自体を信じようもない。ホンマカイナというのが実感ではあるが、まあまあよくできた話だなとは思う。             

                          (記2016.3.2)

 コースタイム

猿橋駅9:45~戸並入口バス停10:25~(一部ルートミス)~金毘羅宮11:45~大同山(907m)12:35~百蔵山(1003.4m)12:55~扇山(1137.5m)15:30-45~山谷集落16:37~鳥沢駅17:25