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艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

カモシカとご対面 笹子から大沢山・大洞山・笹子峠へ (2016年4月6日)

 

 またしても中一ヶ月空いてしまった。ブログのことではない。いやブログもそうだが、山のことである。ここまで確実に月一のペース。しかし、もう何も言うまい。ともあれ一ヶ月ぶりに登ってきたのだ。

 

 ルートは、ここのところポピュラーなところが続いたが、日もだいぶ長くなってきたことだし、前から気になっていた、ちょっとマイナーな健脚コースにした。駅から歩き始めるのでバスの時間を気にする必要はないが、少しだけ気合いを入れて5:30に目覚まし時計をセットした。ところが何としたことか、鳴ったのは6:30。一時間間違えてセットしてしまったのである。その瞬間、もう今日は中止しようかという思いが頭をよぎった。起床時点で早くも前途多難である。しかしおかげで、いつもよりは少し多めの睡眠をとることができ、行動していてもだいぶ楽だった。やはり前夜の睡眠は重要だ。

 

 笹子駅着9:40。登り口となる追分の神社めざして歩き始める。飲み水は500ccほど持参してきたが、もう一本自販機で買おうと探しながら歩くが、結局買い損ねた。これが第二の蹉跌。今日一日500ccですごさなければならない。まあ~、何とかなるか。

 登り口にあたる追分の神社めざして歩きながら、その最初の分岐を見落としたようだ。それに気づかず進むと、指導標がある。それに導かれるまま歩くと、予期せぬ「追分トンネル」の入り口に着いた。そんなもの、手持ちの2.5万図には出ていない(ザックに入れてある「山と高原」地図には出ていたが、この時点では気づかず)。ままよとトンネルを抜ければそのまま沢沿いに清八峠に向かう道。右から左に大きく迂回して元に戻るのを嫌って、トンネルの出口から左へ、道はないがかすかな踏み跡らしきものを辿って何とか、神社からの正規の尾根道に乗ることができた。30分ぐらいはロスしたか。第三の蹉跌。いよいよ前途多難かと思われたが、以後は、いたって順調と言えば順調。特に問題もなく歩けた。

  ↓ 北東尾根上からの大沢山

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 大沢山の北東尾根の半ばは植林帯だが、明るく、また適度な傾斜が続き、歩きやすい。この尾根を含めて、今回のルートは全体が従来いわゆる篤志家向きとされ、『新ハイキング』や一部の単行本に載ることはあっても、ガイドブック類にはほとんど載っていないと思う。国土地理院の地形図にも破線は記載されていない。まあそうはいっても、最近の「山と高原」地図には破線ではあっても記載されているし、実際現地には新しい指導標が設置されているのだから、だいぶ一般的にはなっているようだ。かつての「秘境ルート」や「篤志家ルート」が事実上「一般ルート」化するなど、登山コースの変遷、流行りすたりと言うものは確かにある。だが近辺の三つ峠山や大菩薩嶺に比べればまだまだ静かなものである。

 

  ↓ こんな感じ。新緑は未だし。頂上間近

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  ↓ 気持の良い大沢山山頂

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 大沢山1460mはこじんまりとした、気持の良い山頂。富士山も見えるが左半分は雲の中。曇天のせいで妙に平板に見える。

 惜しいことに先行者が一人休んでいた。笹子駅着6時台の電車で、中尾根をへて来てこれから下山だという。早いですねと言ったら、遅いですね、と言われた。ふだんより5時間早く起きても、登山開始が3時間以上遅いというこの現実。早立ち早着は登山の原則ではあるが、このいかんともしがたい私の現実。まあ、良い。天気予報を見て日を選び、明るいうちに人里に下りられれば良しというのが、最近の私の計画の基本である。ヘッデンも非常食もレスキューシートもお守り代わりに常にザックに入れてある。若干後ろめたい感もあるが、充分安全には気を使っている。夕闇とともに山里の集落を歩くというのも、捨てがたい味がある。それが私の流儀なのだ。しかしそうはいっても、充分睡眠をとった上で早く登り始めるのが一番良いことにかわりはない。私にとって永遠の課題である。

 

 大沢山山頂から主稜線を辿る。スッキリとした尾根はときおり細くなり、多少のアップダウンを繰りかえす。何ヶ所かの小さな崩壊地も問題はない。ヤブが深いと言われているあたりも数年前の笹枯れのせいか、問題なし。ほとんどが広葉樹の自然林で気持がよい。惜しむらくは新緑にはまだ早すぎたということ。そして晴れのはずだった天気がやや曇りがちで、その分風景に立体感がなく、冴えがないということである。まったく美とは光であると、あらためて思う。

 

  ↓ 細い尾根のアップダウン

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  ↓ 大洞山への稜線とその奥、達沢山方面を望むf:id:sosaian:20160407211524j:plain

  ↓ イワカガミ(たぶん)の群落 花の時期はきれいだろう

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  ↓ 少し陽がさしてきた。

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 ともあれ、思っていた以上に気持の良い尾根をマイペースで快適に進む。ボッコの頭をすぎれば摺針峠。一部不鮮明と言われているが、右に笹子方面への新しい指導標もある。なんといっても一カ月ぶりの山行。太ももはすでに疲れきっている。修行から苦行の域に達している。ショートカットするならここが最適なのだが、気合いを入れ直して進む。大洞山は広くやはり気持の良い山頂。カヤノ木平まで来れば先が見えてきた。

  ↓ 大洞山山頂

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 中尾根の頭1290m圏とおぼしきところで中尾根へ下る路を確認し、少し進むと「中尾根の頭1278m」の標識がある。「中尾根の」というからには、支稜である中尾根が主稜線に突きあげた地点でなければならないはずが、そこから離れた、とあるピークに設置されているのである。地形図に独立標高点が記されているからであろうが、これは設置者の読み違い。こうしたことはときおり見かけることだが、おそらく今後も訂正されることはないだろう。

  ↓ 右下は崩壊地。根の大半は空中にありながらも踏ん張っている。

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  ↓ こちらは必死にしがみついている

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  ↓ 宿り木。常緑ゆえに北欧などでは生命の象徴とされる。落っこちていた薄黄緑色の実を口にしてみたら、かすかに甘かった。種子を包む果肉は異様に粘り気が強く、吐き出そうとしてしても口内にくっついて、なかなか離れない。なるほど。この実を食べた鳥が木の枝にとまって糞をし、その粘り気によって木にくっついて繁殖していくという仕組みに、納得がいった。

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 そこから先も細い尾根は気持よく続き、笹子峠に17:20に降り立った。この古い歴史を秘めた峠もほぼその役割を終え、今は静かにたたずんでいるだけである。この頃になって私は、若干計画に抜かりがあったことに気がついた。つまり峠でほぼ山行は終了、後はゆっくり駅まで1時間程度歩けばよいと、漠然と思っていたのである。しかしよくよくコースタイムを見れば駅まで2時間以上となっているではないか。暗くなるのは避けられない。

  ↓ 笹子峠 在りし日の面影やいまいずこ

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   ↓ 見返ればなんとささやかな笹子峠 

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 まあ仕方がない。ゆっくり行くさと車道に出て、ふと進行方向を見たら、20mほど先に何かいる。熊?犬?大型猟犬?猪ではない、鹿でもないが、何か大きなものがいる。

   ↓  20mほどさきに獣!

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  じっと動かない。まさかいたずらで犬のオブジェを置いた?しかし私はそっちへ進まなければならない。足元に落ちていた枯れ枝をそっと拾い上げる。しかし何の役にも立たないほど枯れ切っている。とりあえず、生き物かどうか確かめるためにその枯れ枝で傍らのガードレールをゴンゴン叩いてみる。動かない。少し落ち着いてきた。今度は威嚇のために大声を張り上げながら少しずつ近づいてみる。「うりゃ~!わあぉう~!ぎゃ~!」。こちらをゆっくりと見た。やはり生き物だ。獣だ。逃げ出してくれ~。その時、一瞬閃いた。これはどこかで体験したことがある。まさか、カモシカ

 以前、積雪期に越後や奥利根などの山によく行っていた頃、特別天然記念物ニホンカモシカにはよく出会った。カモシカを猟銃なしで仕留める法というのを、聞いたのだったか、読んだのだったか。カモシカはたいへん好奇心の強い生き物で、人と出くわすと、立ち止まってじっとこちらを見ている。そこで白い手ぬぐいでも何でも頭上でひらひらさせながら踊りながら近づいていっても、まだ見ている。間際まで近づいて、そっと引き抜いた腰の鉈を振り上げて眉間に一撃、というものである。ほんまかいなと思いつつも、実際彼らはずいぶん近づいてもなかなか逃げようとはしない。しかし私の見たカモシカは積雪期だったせいか、白っぽい、灰色っぽいやつらだったが、今目の前にいるのはかなり黒い。あるはずの角も見えない。しかしやはりどうやら猟犬ではなく、熊でなく猪でもないのだから、カモシカなのだろう。カメラを取り出してズームで見ると、私の知っているカモシカとは若干印象が異なるが、確かにカモシカだ。角もある。手にしていた枯れ枝を捨て、汗止めに巻いていた手拭を頭の上でヒラヒラさせながらゆっくりと近づいてみる。5mぐらい近づいたところで、迷惑そうに、ゆっくりと動き出した。「あ~っ、もうちょっと待って、カモシカさん!」と実際に口に出しながら再びカメラを構えると、撮影の間、めんどくさそうに待っていてくれた。そしてゆっくりと、名残惜しそうに去って行ったのである。

   ↓  撮影のあいだ待っていてくれた。よく見れば角もある。距離5mほど。

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   ↓  声をかけたら最後にもう一度振り向いてくれた。よく見れば爺さん顔。しかしお尻を見ればやはり熊のようだ。

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 上信越、南会津以外の、奥秩父奥多摩カモシカを見たのは一二度あるかないか。それもチラッとぐらいのもので、写真を撮ったのは初めてである。あらためて写真を見てみると、どこか人間臭い表情だ。例えれば、「昔、山の上の方に一人で住んでいたけどいつの間にかいなくなっちゃたお爺さんがカモシカに転生して現れた」みたいな感じだった。

 一瞬の恐怖からほのぼのとした喜びへ。そんな感情に浸りながら、薄暗くなった旧甲州街道を辿る。名所「矢立の杉」もすぐ傍を通りながら、あまりの疲れで割愛し、すっかり暗くなったころ、ようやく駅に辿り着いた。

 度重なる蹉跌にも関わらず、振返って見れば、しみじみとした良い山、良いコース、良い山行であった。

   ↓ 赤線が歩いたルート

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                         (記 2016.4.7)

コースタイム

笹子駅9:40~大沢山北東尾根10:25~大沢山(女坂山)1460m 13:15~ボッコノ頭1445.9m14:20~摺針峠15:05~大洞山1402.6m15:40~カヤノ木平15:55~中尾根の頭16:40~笹子峠17:20~笹子駅19:05