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艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

筍を掘る! 

 四月、春たけなわ。「四月は残酷な月だ」と歌った詩人もいたが、つまりそれは裏返しの生命力の祝歌(ほぎうた)である。

 ↓ わが家の枝垂桜 清楚にしてあでやか

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 ↓ アトリエから見るNさん宅の八重桜 物狂おしく、妖しきほどに濃厚

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 ↓ 同上 この過剰なまでの豊穣

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 生命力―花。多くの花がいっせいに彩美しく咲くというのは、考えてみれば不思議な話だ。かくして花は形而上学的な思いへともいざなってくれるが、もう一つ、より多く形而下的な喜びに寄与してくれるのが、春の山菜や野草食である。

 

 蕗の薹にはじまり、土筆、甘草、野蒜、コゴミ。いずれも庭先やごく近所で自採りするもの。山葵の新芽は檜原の友達からもらった。ワラビの自生地は知っているが、今年はスーパーで購入。イタドリとタラの芽は、今年は採りそこなった。まあ、いい。ほんの少し、二三回で良いのだ。ただ自分の食べる分だけ採り、シンプルに季節を食すのである。おすそ分けなんかしない。必要以上に採るから自生地が消滅するのだ。コシアブラ、ウルイ、シドケ、ユキザサ、根曲竹などの山地性のものは、もはやなかなか手にすることができない。

 しかしなんといってもこの美しき季節に燦然と輝くもの、それは自採りの筍(孟宗竹)である。まあ、ふつう山菜とは言わないが。

 

 縁あってここ五日市に住むようになって以来、お付き合いさせていただいている隣家のNさんの敷地に竹林がある。その半ばを占める沢床に向かう斜面は、数年前に残土捨て場(?)~造成予定地として売却され、その後何らかの事情で放置されているから、正確にはNさんの土地ではないのだが、Nさんにとっては頑として「俺んちの筍」であるらしい。Nさんは今年89歳。根っからの地の人。かつて五日市が山村と呼ばれるにふさわしかった時代から、農業と山仕事をなりわいとしてこられた人である。そのNさんも寄る年波には勝てず、ここ数年は私が許可をえて、採らせてもらっているのである。

 筍掘りといっても、栽培農家でのそれと違って、ここでのやり方は別にそう難しいものではない。とは言え、ほんの少しだが一部急斜面の登降があり、また採ったあとの重い(けっこう半端ではない)筍を担ぎあげるアルバイトもある。しかし、こうした山仕事的な作業はお手の物、どちらかと言えば、好きなのだ。

 服装は汚れてもかまわないもの、つまりアトリエでの制作用の格好そのまま。足回りは重要で、長靴でもよいが、やはり登山用の靴は信頼できる。そして採った筍を詰め込んで一気に担ぎあげる50~70ℓ程度の山ザックと、汗止め用の手拭。

 ↓ いざ出陣 本日は長靴着用

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 何といっても一番重要なのが、鍬である。これはNさんの使い込んだそれを、毎回借用させてもらっている。いわゆる打ち鍬というやつだろうか。調べてみたらなんと「筍掘り鍬」というのがあった!まさにこれである。柄の長さは1m弱。斜面登降の際には、これを逆に持って、ピッケルのようにして使うと便利。

 竹林の上の方の平らなところはNさんやその親族が掘れるように手をつけず、私が掘るのは急斜面を下った下の方。そこは暗くやわらかい腐葉土層の斜面という立地条件もあって、技術的には(慣れれば)簡単だ。

 ↓ 上部は写真で見るより急傾斜 鍬をピッケル代わりに下る

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 あちこちに10~30㎝も顔を出した筍の、谷側(下側)の根元の落葉、腐葉土を少し掘って、出てきた湾曲部の外側の白い部分に狙いを定め(一二度素振りをして)、足場をかため、一気にザクっと打ちこみ、そのままテコの原理でグイッと引き起こせば、きれいにポロリととれる。一丁上がり。

 ↓ ドヤ!

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 今年二度目の今回は、撮影役として女房を同伴したのだが、最初の一つが採れると以後皮むきに専念したようで、肝心の、鍬で一撃!のシーンを撮っていない。まったく何のために同伴したのか。

 

 まあ、だいたいそんな感じである。

 採ってからは皮をむき(廃棄率60~70%)、あく抜き用に米糠を入れてゆでる。わが家では圧力釜を使用しているが、普通の鍋でもかまわない。

 ↓ ドヤ!

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 ↓ さて、皮むき

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 ↓ むけばこんなもの

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いろいろな食べ方があるだろうが、私はシンプルに昆布+鰹だしで、鶏肉か豚肉(牛肉でも可)と一緒に醤油で煮るのが一番好み。他にも、バタ焼き、味噌炒め、サラダ、中華風、汁の実、スパゲッティや焼きそばの具と、色々できる。なお冷凍にすると、やはり味は一段落ちる。保存用に、細切りにして干して見たこともあったが、戻しがうまくいかず、これは今のところ失敗。やはり、採ってから間をおかず食べるのが一番うまい。むろん作るのはすべて女房である。

 よくまだ地面から顔を出す前のものを朝方に掘って、穂先を刺身でという食べ方もあるが、それはまあ専門栽培農家の料亭用だろう。私流は結構大きくなったものが好きなので、そうした食べ方は向かない。実際、そう美味いものでもない。やはり筍なんてそんな上品なものではなく、ガンガン採ってゴンゴン田舎っぽくシンプルに食べるのが一番美味いと思う。

 そう言えば同じ筍でも、私は孟宗以外の真竹などの細いものも好きだ。中でも雪国の根曲竹(地竹という言い方をするところもある)の採りたてのものの味は、確かに一ランク以上、美味い。以前に残雪から初夏の越後や会津の山を歩いていた頃、よく採っては焚火に放り込んで焼いて食べたものだが、あれは確かに絶品であった。だが、それも今は昔。

 ↓ 参考画像 ネマガリタケ

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 今年はどうやら筍は豊作のようだ。日々の裏山歩きでも、その感はある。ただし近年の手入れをしないせいか、広がっていく一方の竹林を見ると、肝心の筍の姿があまり見えない。かわりに無数の掘り返した跡がある。猪である。猪も今年は喜んでいるらしい。竹林はその領域を広げようとして、その外側、人の生活圏にも筍を生やすのだが、不思議なことにそれらは取り残されている。猪も人間を警戒するらしい。ちなみにNさんの竹林は山からちょっと離れていることもあって、被害をまぬがれている。

 五日市に住んで20年近くなるが、私の家の周りでも、新しく住宅や建物がずいぶんと増えており、その分、空き地や山林が減ってきている。私の筍掘りもいつまで可能か、予断を許さない。願わくば、猪と共存しつつも、何よりもNさんが少しでも長く健康であられんことを!

 ↓ 今夜の食卓。こういうのを出すのはあまり好きではないのだが、せっかく作ってくれたことだし。

中央:●筍と牛肉の煮もの その上、●シラスのソテー 以下時計回りに●アジフライ+千切りキャベツ ノラボウ菜(五日市特産の地野菜)のおひたし 寝かせ玄米ご飯 餃子とニラのスープ 独活+ニンニク味噌とマヨネーズだれ その左にチラッと見えているのは●山形の三五八漬け ビールは当然発泡酒 (今日はちょっとつまみが少ない) 女房よ、いつも美味しいものをありがとう。

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                         (記:2016.4.27)