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艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

新緑から万緑の世界へ 御坂・黒岳から釈迦ヶ岳へ

 また中一ヶ月空いてしまった。この間一度、わが「裏山」の秋川丘陵の小峰公園桜尾根から金剛の滝をへて、今熊山505mというコースを歩いてはいる。歩程3時間ほどで、一部初めて歩く部分も含まれているのだが、「登山」というよりはやはり「裏山歩き」の延長といった感が強い。他人からすればどうでもいいことだろうが、自分としては「山行リスト」に記載するにはためらいがある。まあ、ささやかなこだわりなのだが。

 

 ここのところの股関節の不安がある。左肩から指先までの痺れもある。まあ、歩く分には大丈夫だろうと、例によって3時間少々の睡眠で家を出る。目的は昨年黒岳から、今年四月に大沢山から遠望した三角錐の鋭鋒、釈迦ヶ岳。珍しくその姿形に惹かれて登りたくなった山である。

 河口湖駅からのバスは最近毎度のことだが、中国人観光客で満員。事前に調べておいたはずなのに、寝不足のせいか違うバスに乗ってしまったようで、登山口の久保田一竹美術館前のバス亭に着いたのが、予定より15分遅い10:05。

 ここで重大なミスに気づいた。地図を半分忘れてきてしまったのだ。私は普通、山行には国土地理院の2.5万図と5万図の地形図と、あれば昭文社の「山と高原地図」の三種を持っていく。今回予定のルートは2.5万図も5万図も二枚にまたがっているのだが、それぞれその左半分(「河口湖西部」と「甲府」)を忘れ、さらに「山と高原地図」も忘れてしまったのである。おおよそは覚えているし、一般ルートだから特に読図力が必要ということもなかろうが、やはり多少は不安である。現地で見るのは主に2.5万図だが、「山と高原地図」にはコースタイムと、要所要所にちょっとした注意点が記されており、それはそれで結構役立つことが多いのだ。

 今回の入山ルートに選んだ黒岳の南尾根は、半ばで二つに分かれ、そのいずれにも登山道はあるが、共に地形図に破線は記載されていない。左の烏帽子岩コースは現在通行不可のようで、右稜というか右側の尾根を選んだ。山と高原地図に記載されたルートは事前に地形図に書き写していたが、取り付きに関しては覚えていなかった。

  とにかく久保田一竹美術館の横を過ぎ、その先の野天風呂天水の前に至る。実は登山コースに入るには、天水の手前の右手の橋を渡らなければならなかったのだ。気をつけていたにもかかわらず、道標がなかったのか、あるいは寝不足のせいで見落としたのか。念のため天水の玄関先を掃除していたおばちゃんに聞いてみると、このまままっすぐ先に進めとのこと。地元の人に道を聞いても登山道のことは案外知らないことが多い。知らないのはしかたがないが、今回のように変則的な道を教えられるとかえって混乱するというか、困るのである。まあ悪気はないのだろうが。やはり「山と高原地図」は必携ということか。

 釈然としないが、一応そのまま進むと道は二つに分かれ、そこにも道標はない。ともかく右手の尾根に登るべく右を選ぶ。少し進むと作業所の廃屋があり、どうにも正規のルートでない事が明確になってきた。正面に、左にと、道らしきものはあるが、どれを辿ってもすぐ先でほぼ消滅する。やむをえず、少し沢沿いに登ったところで、右の尾根を目指して道のないところを登ることにする。幸い藪はなく、錯綜する獣道を上手く使えば、ほどなく正規の尾根上の登山道に出ることができた。やれやれである。それにしても前回、前々回に引き続き三連続で取り付きを間違うとは…。寝不足ばかりではないにしても、少し慎重にやらねばと気を引き締める。とにかくここで30分ほど時間をロスしたようだ。

 ↓ こんな感じ

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 いったん正規ルートに乗ってしまえば、あとは問題ない。よく踏まれた快適な尾根道である。展望はほとんどないが、広葉樹が主の気持良い自然林の中を、ゆるやかな登りが続く。あたりは蝉や野鳥の声がうるさいほど。新緑を過ぎ、万緑とも言うべき緑の中、風に吹かれつつ、さわやかこのうえない登行である。

 

 ↓ あちこちにオトシブミが落ちていた。これはオトシブミ科のオトシブミというゾウムシに似た甲虫が中に卵を産みつけて落としたもの。

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 やがて左側から烏帽子岩コースを合わせ、中沢山1554mはそれと気づかぬうちに過ぎた。少しずつ傾斜を増し、一汗かくとようやく展望がひらけ、富士山の見える岩場が出てきた。今日の富士山は、残雪は少ないが、なかなか立派である。前方の毛無山、十二ヶ岳方面もよく見える。こちらも青巒といったおもむきで、なかなか立派である。この初夏の万緑の頃の山の魅力も、また捨てがたいものがある。

 ↓ 今日の富士山-その①

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 ↓ 左毛無山から十二ヶ岳、右節刀ヶ岳の稜線

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 ↓ もう少し先から 今日の富士山-その②

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 ↓ 正面、毛無山~十二ヶ岳、右節刀ヶ岳の青巒の主稜線 

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 黒岳山頂直下でこの日はじめて登山者二人と出会った。黒岳頂上は昨年5月以来二度目だが、展望もなく、やはり特にどうということもない。

 府駒山、釈迦ヶ岳に続く尾根すじもまた、今まで以上に気持が良い。「山梨の森林10選」とかの看板があった。最近は山も滝も道も森林も、何につけランキングばやり。むしろ興をそがれる思いがするのだが、まあ、いいか。それはそれで、橅の多い、確かに気持の良い森である。

 ↓ 水楢や橅の森 

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 ふと思いついて、スマホで「地理院地図」を開いてみる。おお、何と!開ける。小さい画面ではあるが、ちゃんと地形図が見えるではないか。これでだいぶ気が軽くなった。そう言えば、あとで気づいたのだが、グーグルマップは使えたのだろうか。スマホ片手に山登りと言うのも様にならぬが、今度一度試してみなければならないだろう。

 

 日向坂峠(どんべい峠)で車道が横切っているが、そこに救急車や何台かの車が止まっていた。こんな山の上で交通事故かなと思うが、とりあえず通過する。少し行った先で、何やらやかましく降りてくる団体が来ると思ったら、事故者の搬出だった。道をゆずり、見ると60か70歳台の女性が担架に乗せられ、救助隊数人によって運ばれている。顔に青あざがあるものの、目は開いて、意識もあるようだった。転倒して打撲と捻挫あるいは骨折といったところか。少し先にそのパーティーの数名がいたが、推定平均年齢60歳台後半。

 う~ん、人ごとではない。寝不足、地図の忘れもの、ルートミスによる時間の遅れ、股関節の不安と、私自身ずいぶん不安材料を抱えての今日の登行である。特に黒岳頂上を出て以来、帰路のバスの時間が気になって、早めに予定ルートをカットして降り始めるべきかと葛藤しつつも、釈迦ヶ岳に登りたいという「登山慾」にかられて歩を進めているのである。背筋を少し冷たいものが走るようだ。せいぜい残りを慎重に行こうと、気を引きしめる。

 府駒山1562.4mは三角点はあるものの、およそ山頂らしくないところ。写真を一枚撮っただけで、休みもせず先に進む。釈迦ヶ岳山頂直下は岩場も出てくるが、気をつけて登れば特に問題はない。先ほどの事故者もこうした岩場では慎重にやり過ごして、その後の何ということのないところで転倒したのではないだろうか。えてしてそういうものである。

 ↓ 釈迦ヶ岳山頂直下の岩場 

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 ↓ 釈迦ヶ岳山頂直前から見る 今日の富士山-その③ 

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 釈迦ヶ岳山頂1641mは岩累々の気持の良いところだ。360度の大展望が素晴らしい。いつもだったらこの時間、富士山は雲に隠れていることが多いのだが、今日はまだその秀麗な姿態を黒岳から鬼ヶ岳へと続く稜線の向こうに見せている。その稜線のこちら側、芦川の谷の風情もすばらしい。

 ↓ 釈迦ヶ岳山頂

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 ↓ 山名のゆえか、地蔵仏やこうした信仰関係の新しい設置物がいくつも置かれていた。まあ気持はわかるが、古いものは大事にしたいが、あまり増やさない方が良いと思いますけど。

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 ↓ 釈迦ヶ岳山頂からの 今日の富士山-その④ 

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右岸の神座山、春日山と連なる稜線とにはさまれ、緑の波濤と形容したくなるような景観である。思わず、この光、この彩を見るために、ここに来たのだと思ってしまう。実に絵になる。しかし、私がこれを絵にしようと試みることがあるのだろうか。

 

 ↓ 緑の波濤 芦川谷 

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 ↓ 芦川谷右岸 神座山から春日山へと連なる稜線

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 ともあれ、時間が気になる。コースタイムの記されている山と高原地図がないために、時間のめどが立たない。スマホ地理院地図を見ると2時間はかかりそうに思える。17:36のバスには間に合わなくとも、最終18:36には乗らなくてはならない。しかし先ほど事故者を見たばかり。こういう時ほど慎重にいかねばならない。山頂からの下りも岩場が続くがロープもあり、慎重に行けば問題ない。間もなく道は無名の峠から芦川へと下る。九十九折りの後、林道から立派な舗装道路に出た。

 頑張れば、ひょっとしたら17:36のバスに間に合うかもしれない。そう思えば、何とか間に合わせたいと思うのは人情(?)で、ついつい頑張ってしまった。結局、すずらんの里バス亭の少し手前でやってくるバスに出会い、手をあげて乗りこむことができた。自由乗降区間だったのである。

 

 かくして懸案の、少し憧れの、釈迦ヶ岳に登ることができた。全体を通して樹林の美しい、良いルートだった。寝不足、股関節痛、地図忘れ、等々の不安材料、失敗にもかかわらず、充実した一日だった。それにしても、何とか充分な睡眠をとってから登ってみたいものである。もっと素晴らしい山行が堪能できるのだろう。相変わらずの永遠の課題だ。そして、ある程度の無理はやむをえないにしても、今後とも充分気をつけて慎重に行動しなければならないと、人ごとでなく、あの事故者の搬送作業を思い出すのだった。                  (記 2016.6.4)

 

【コースタイム】2016年6月2日

河口湖駅~久保田一竹美術館バス亭10:05~黒岳南尾根右尾根~左尾根と合流12:05~黒岳1792.1m13:40~日向坂峠(どんべい峠)14:55~府駒山1562.4m15:25~釈迦ヶ岳1641m16:08-20~峠16:40~舗装道路17:15~すずらんの里バス亭手前17:40~河口湖駅