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艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

マイナー・バリエーションルート:小路沢ノ頭北尾根から笹子雁ヶ腹摺山~送電線尾根下降

 二週間前に水野田山から古武山、徳並山と登った。その徳並山南尾根下降の際から見た(発見した)印象が忘れられず、小路沢ノ頭北尾根を登りに行った。

 

 ↓ 徳並山南尾根から見るお坊山(左)から小路沢ノ頭(右)の稜線。右端が小路沢ノ頭北尾根(3月9日)

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 小路沢ノ頭と言ってもどこかわからない人が多いだろう。地理院地図にも山と高原地図にも山名は記載されていない(小路沢の名は記載されている)。まあ、わかる人にだけわかれば良いのであるが、数少ないこの山ブログの愛読者2名が山口県在住で、関東近辺の地理にうといので、少し説明する。

 東西に延びる奥秩父山地の中ほどから南に下がったあたり、黒川鶏冠山に端を発した大菩薩連嶺というべき長大な尾根は、最高峰大菩薩嶺の先で日川を挟んで東西に分かれる。東側(日川左岸)が主稜で、小金沢連嶺とも呼ばれる。ややスケールの落ちる西側(日川右岸)は途中、源次郎岳~恩若峰の尾根や、宮宕山~甲州高尾山の尾根を派生させながら、その主脈は古武山から徳並山に至って日川、中央線に突き当たり、消滅する。

 主稜の小金沢連嶺は途中で牛の寝通りや、雁ヶ腹摺山からの楢ノ木尾根、また大垈山から岩殿山への支脈などを派生させながら南下し、大谷ヶ丸で滝子山を分岐して西に向きを変え、笹子雁ヶ腹摺山をへて笹子峠で大菩薩連嶺の範疇を一応収束させる。

 その大谷ヶ丸から笹子峠までの間にはいくつものピークがあるが、2.5万図に山名の記載があるのは笹子雁ヶ腹摺山のみ。5万図には一つもない。登山用の山と高原地図にはコンドウ丸、大鹿山、お坊山、米沢山、笹子雁ヶ腹摺山と五つの山名の記載がある。小路沢ノ頭は笹子雁ヶ腹摺山のすぐ西の1290mの突起である。この名はその北面に突き上げる日川の支流小路沢から便宜的に付けられたもののようで、もとより確固とした一個の山というほどの存在感はない。

 その米沢山から笹子峠の間に北に延びる尾根が四本ある。一番西の尾根には送電用の鉄塔が並び立ち、2.5万図には道記号が記載され、昔からよく歩かれているようだ(5万図には道記号の記載がない)。この送電線尾根はともかく、残りの三本の尾根が気になったのである。いや、それらの尾根の存在を意識したのは、実はもっと前だ。

 

 ↓ 「地理院地図」のサイトを印刷し赤線を引いて撮影した

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 20年ほど前に笹子から笹子雁ケ腹摺山~お坊山~棚洞山と歩いたとき、笹子雁ヶ腹摺山や米沢山(矢平峰)の山頂から北に延びる尾根にしっかりした踏み跡が続いていたのを確認している。地図で見るとスケールはそれなりでしかないが、すっきりとした感じで、歩いてみたいという気になったのである。山域的にも仕事道程度のものは必ずあるだろうと思った。しかし、当時持っていたいくつかの資料には、その記録なりガイドは載っていなかった。降り口はわかっても、取付きがわからない。尾根はそれが魅力的なものであれば、やはり上から下るのではなく、できれば下から登りたいものであるが、取付きを探すためにわざわざ現地に行く気にはなれないまま20年たった。

 

 前回の徳並山南尾根からの印象に魅了されるままに、帰宅後、珍しくインターネットで調べてみた。するといくつも記録が出てくる。私は山行に関して、あまりインターネットでは調べない。昔から文献で調べることが好きで、慣れているからでもあるが、写真付のネット情報だとあまりにわかり過ぎて、イメージが固定されるのが嫌なのである。文献としては当然出ているだろうと思ってみた松浦隆康の『バリエーション』シリーズ三冊にもなぜか出ていない。出発間際に知ったのだが、それらの前、2005年に出た『静かなる尾根歩き―奥多摩から八ケ岳まで100コース』 (新ハイキング選書)にすでに出ていたのである。同書はすでに絶版で、定価1680円がアマゾンの中古で、なんと4679円。キンドル版で2052円となっている。私はキンドルなんか使いません。「日本の古本屋」ではヒット0。

 ということで、今回は事前にある程度ネット情報をみておいた。とにかく、取り付き点と下山地点の把握がいかに大事かということが、身にしみてわかっているこの頃であるから。

 

 武蔵五日市発7:18、甲斐大和駅9:27着。9:35に歩きだす。セブンイレブンの前の小道を川に向かって下るとすぐに川久保橋。果樹園のような農地のようなところを道なりに進むと、道の尽きかけたあたりで右から小さな沢が入ってくる。その対岸が尾根の取り付きだった。道標やテープ類もなく、初見では確かにわかりにくいだろう。

 登り始めれば細い尾根上に、踏み跡はしっかりある。最初から鹿や猪の気配、痕跡が濃厚で、むしろ彼らがこの尾根の路を整備してくれているようだ。ところどころ落葉や湿った泥で滑りやすいところがある。今回好天が三日ほど続くことで、二回出発を延期したのだが、それはその前に雨が降ったことを考慮したからでもある。前日が雨天の場合、このように泥で滑りやすくなることを避けたのだ。

 

 ↓ 登りはじめ こんな感じ

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 明るく細い尾根を順調に登り、右側が植林帯となったところで、突然二頭の鹿が現れ、15mほど横を走り去った。一頭は少し小さく、親子(母子)連れだろうと思ったが、大きい方には角があったから牡か。うん?母子連れではなく、父子連れ?そんなことはあるのだろうか。よくわからないが、久しぶりに出会ったことは嬉しかった。お尻の白い毛はやはり可愛い。

 そこからほどなく主尾根に合流した。ここまでテープ類はほとんどなかったが、ここからは水色のスズランテープが出てくる。この主尾根との合流点では登って来た尾根は尾根状を呈しておらず、下降の場合はわかりにくいだろう。見れば、スズランテープは主尾根をそのまま下るように付けられているようだ。

 

 ↓ 主稜線と合流したあたり

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 尾根は幅広くゆるやかなものとなり、特に踏み跡は明快ではないが、どこでものんびりと歩ける。落葉のラッセル。振返れば、二週間前に歩いた古武山徳並山方面が、木の間越しに見える。富士山や南アルプス方面には雲があり、見えない。

 1044mのピークを越え小路沢ノ頭が近くなってくると、尾根は痩せて細くなり、ちょっとした岩場が出てくる。一か所古いトラロープが張ってある。その痩せ尾根自体はさほどでもないのだが、ほんの少しだけ残っている雪の部分が凍っていて、滑りやすく、緊張させられる。登りはともかく、下りでこの状態は恐いなと思う。

 

 ↓ やせた岩稜っぽいところにトラロープが張ってある。

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 ↓ わずかに残る雪のところが凍っていたり、融けかけて滑りやすかったり。左右は切れ落ちている。写真で見るよりけっこう恐い。

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 小路沢ノ頭1290m着、12:20。山名表示板等、何もなく、山頂という感じは皆無。縦走路上の単なる一地点である。左右ともいかにもこのあたりらしい、明るい樹林の尾根が続いている。

 

 ↓ 小路沢ノ頭。何の変哲もない一地点

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 さて、ここで今後のルートについて考えた。今登って来た尾根からも見えたが、主稜線から見ても北側は多少雪が残っている。予定では笹子雁ヶ腹摺山を越え米沢山から北尾根を下降することにしていたのだが、米沢山北尾根はやはり下り始めが痩せ尾根となっており、それなりに恐いという情報を持っていた。常の状態であればまあそれほど問題ともいえないだろうが、今日の状態ではわずかに残った雪の、正確にはその下の土の部分が凍っていて、それがもう少し時間がたつと融けて、より滑りやすくなるのは目に見えている。嫌な予感がする。そういう時は要注意なのだ。体験からくる予感は大事にしなければいけない。もともと米沢山北尾根は、下るよりも、本当は登りたい尾根である。次の機会でもよいのだ。

 ではどこを降りるかと考えて思いついたのが、送電線尾根である。そこは古くから歩かれているところでもあり、まず問題はない。だがここ小路沢ノ頭から単純に送電線尾根を下るだけでは少々物足りない。しかし、笹子雁ヶ腹摺山を往復し、ついでに送電線尾根ノ頭から笹子峠への往復も加えれば、大菩薩嶺からの主脈の赤線が全部繋がることにもなる。気になる赤線の未接続部分も解消できる。物好きではあるが、私なりの美学である。良い解決策を見出したような気がする。

 笹子雁ヶ腹摺山1357.7mへは30分ほど。20年ぶり二度目の頂上だが、狭い頂上に五本もの山名表示が乱立している。かつてはどうであったか、記憶にないが、「山梨百名山」「大和十二景」「秀麗富嶽十二景」・・・。多すぎる。美しくない。おまけに字体がいちいちコンピューターフォントで、センスが無い。山頂自体のたたずまいは素朴で良いのに、残念至極である。

 

 ↓ 笹子雁ヶ腹摺山山頂

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 ↓ 途中の鉄塔から見る三ツ峠、本社ヶ丸方面

 

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 軽く昼食をとって引き返す。途中の鉄塔の先に「笹子峠 尾根道」と「笹子峠 新道」の表示がある。新道の存在は知らなかったが、水平な巻道であろう。何となく少し楽をしたくなって、そちらに入って見る。予想どおり穏やかなトラバース道で、緊張感はなく、気分は悪くない。まもなく送電線尾根ノ頭で主稜線の尾根道と合流する。新道の存在理由がわからなかったが、要するに送電線の巡視路だったのである。

 

 ↓ おだやかに水平に伸びる新道

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 送電線尾根ノ頭から笹子峠を往復してくる。二度目の笹子峠だが、特に感慨もなし。徒労と言えば言えなくもないが、最後の赤線がつながったことに、ささやかな満足をおぼえる。

 

 ↓ 二度目の笹子峠を眼下に見る

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 これから下る尾根は、ここまで送電線尾根、送電線尾根ノ頭と記してきたが、仮称であって、実際の名前があるかどうかはわからない。下り始めに小さな岩場が出てきたが、岩場はそこだけ。尾根筋の路はしっかりしているが、わずかに残った雪の部分やそれが消えた後は、融け始めた泥がグチョグチョになって実に滑りやすい。こんなところで尻もちをつきたくないと、慎重に下る。それもしばらくの間だけで、あとは問題なく幅広い尾根筋をのんびりと下る。ときおり、左に右に小路を分岐するが、尾根上を忠実に辿る。ずっと送電線の下を行くのはあまりいい気分ではないと思っていたが、実際にはほとんど視野にも入らず、気にならない。

 

 ↓ 送電線尾根の下り始め。岩場はここだけ。

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 途中、落葉松の木に大きなスズメバチの巣があるのを見つけた。ふつう雨の当たらない岩壁などではよく見かけるが、まっすぐな立木にあるのはあまり見たことがないが。

 

  ↓ 落葉松にかけられたスズメバチの巣

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 次いでまたちょっと不思議なものを見つけた。「熊棚」のように見えるが、まさかと思う。しかし見るほどにそうとしか思えない。

 

  ↓ 熊棚?

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 熊棚は以前に残雪期の奥利根などでよく見た。初めて見た時には巨大な鷹の巣だと思ったが、先輩にあれは熊棚というものだと教わった。熊がその実を食べるために橅の木に登り、手近な枝を引き寄せ、へし折っては、食べ終わった枝を尻の下に敷き重ね、座布団のような、鳥の巣のようなかたまりを作るのである。しかしこんな所でと思うが、熊が棲息していることは事実だ。熊棚といえばイコール橅(ブナ)という頭がある。少し距離が離れているためその木が橅かどうかははっきりしないが、その特徴である白っぽい地衣類が付いているようにも見える(帰宅後調べたら熊棚を作るのは橅とは限らず、栗や小楢などにも作るとのことである―考えて見れば、それはそうだろう)。高さは10mほどで、その上の方の枝も引き寄せ、へし折っている様が見てとれる。

 

  ↓ ちょっとだけズーム。上の枝がへし折られている。

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 尾根もほぼ終わるころ、山茱萸サンシュユ)の花が咲いているのを見た。その向こうに、今日登った小路沢ノ頭北尾根が見える。前回今回と沢をめぐる周回尾根コースだったために、下るときに登ってきた尾根が見えるというのは、余韻があって、なかなか良いものである。ともあれ、鹿といい、熊棚といい、山茱萸といい、なかなか楽しいものを見た。

 

  ↓ 山茱萸とその向こうが小路沢ノ頭北尾根の下部

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  ↓ 日川をへだてて見る水野田山から古武山、徳並山

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 最後は例によって鹿除けフェンスをくぐり抜け、赤い屋根のお寺の脇に出て終了。諏訪神社に寄り道してから甲斐大和駅に到着した。

 

 米沢山北尾根は課題として残ったが、それはまた別の機会にもっと良い形で登ろうと思う。それにしてもこの大菩薩連嶺の南、甲斐大和周辺、笹子周辺には私好みのマイナー・バリエーションルートがまだまだ残っているのがうれしい。                (記:2017.3.26)

 

【コースタイム】2017年3月24日(金)

甲斐大和駅9:27/9:35~小路沢ノ頭北尾根取付き9:45~主尾根と合流10:40~P1044m11:02~小路沢ノ頭12:20~笹子雁ヶ腹摺山13:00~新道分岐13:32~送電線尾根ノ頭13:55~笹子峠14;05~送電線尾根ノ頭14:25鹿除けフェンス15:55~甲斐大和駅16:30