艸砦庵だより

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玲瓏の佐久・光あふれる尾根を天狗山から男山へ (2018.10.28)

 朝7時に金峰山荘の朝食。食べ終えてベランダで一服していると、快晴の朝陽を浴びて、周囲は紅葉と岩々の遊戯場のようだ。

 屋根岩パノラマコースに心惹かれる。千曲川上流梓山からの(秘峰?)五郎山にも惹かれる。未だ登っていない金峰山そのものも魅力的だが、ここはいずれまた違った計画で歩いてみたい。などとイメージプランは果てしなく広がっていくのだが、今日は一人で天狗山から男山の縦走である。

 

 昨日の宴会のあとを整理撤収する。そうこうしている間にも快晴の廻り目平でのクライミングを目指して多くの登山者がそれぞれに散っていく。圧倒的に多いのがマットを背負ったボルダリングの人。う~ん、時代は変わった。そうした人たちを眺めていると、さすがに有名人が多いせいか、山本さんや金さんや国井さんなどはあちこちから声を掛けられる。一ノ倉烏帽子大氷柱初登の菊地敏之さん(だったと思うのですが)、お~!この人がそうか。遭対訓練の講師として来ているとか。等々。

 撤収が終われば解散である。この後、近くでクライミングをする人、所用があって早々に帰られる人、のんびり寄り道して帰られる人、さまざまだ。

 私は先日のお話通り、関越道から帰るという打田さんに馬越峠まで送ってもらう。多少は回り道をさせることになるのだろうか。申し訳ないが、ありがたいことである。

 

 天狗山・男山は、山域としては佐久の山である。位置的には八ヶ岳の東、千曲川の右岸一帯を言う。大島亮吉が「佐久の幽巒」と呼んだ御座(おぐら)山が日本二百名山に選ばれているぐらいで、他に多少知られているものとしては茂来山、四方原山、そしてこの天狗山・男山ぐらいのものだろう。30年ほど前に茂来山から四方原山を目指したが、時間切れで四方原山は断念。その夜、麓の民宿に泊まり、翌日御座山に登った。12月で寒かった記憶がある。

 佐久の山と言うのは、八ツや奥秩父、西上州といったはっきりした個性を持っていないような気がする。個人的には、乾いた、中性的で、透明感のある山域といった印象を持っている。そうした強い自己主張をせぬ奥ゆかしさ(?)、さりげなさが佐久の山の個性というか魅力なのだろう。

 

 お土産を買いに打田さんが立ち寄られたスーパーの駐車場から、八ヶ岳東面の全貌が見える。素晴らしい大観だ。沢筋、ルンゼ、リッジ、克明に見える。昔中退した旭岳東稜はどれだ。しばし見とれた。

 

 ↓ スーパーの駐車場から見る八ヶ岳東面 中央赤岳

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 黄葉の白樺林を抜けて馬越峠に着いたのが10:00。ここは標高1610m。1178mのバス停大深山中央から歩けば、馬越峠の少し先で尾根に上がるのだが、2時間ほど楽ができた。私は、本来山はなるべき麓から登るべきだと思っているが、その原則は最近少しずつゆらいできている。今年登った四国剣山も八幡平もそうだった。実際問題、上まで車で上がれるようになっていて、そのルートがまあ妥当と思われるのに、わざわざ無理に下から登るというのもどうなのかとも多少は思う。原則を曲げる気はないが、実際楽なものは楽なのである。

 

 峠には車が6台停まっている。登山道の入り口には馬頭観音と地蔵がたたずんでいる。年記等は見なかった。

 

 ↓ 馬越峠 標識のところが登山口

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 ↓ 峠の石仏

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 登り出せば最初はやや急だが、路はしっかりしている。

 

 ↓ 登り始めはこんな感じ

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 10分ほどで尾根上に乗る。ここから先はもう急登はない。多少広くなったり細くなったりしながら緩やかに伸びる尾根を進む。

 ほどなく右に巻き道を分岐させるが、左に尾根上を進む。このあたりから所々に岩場が出てきて、良いアクセントとなる。ちょっとした所にはロープがセットされ、問題ない。この尾根全体を通して、この時期、おおむね見通しは良いが、特にそうした岩場では好展望に恵まれる。右に「佐久の幽巒」御座山、前方は八ヶ岳から南アルプス北部、左に振り返れば奥秩父金峰瑞牆と、豪華な展望の縦走路である。途中何人かの登山者とすれ違うが、それでも快晴の紅葉期の日曜日にしては予想していたより少ない。

 

 ↓ 「佐久の幽巒」御座山

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 自分なりの快適なペースで進む。昨夜は結構飲んだようだが、幸い二日酔いというほどのこともない。歩き出して1時間ほどで天狗山1882.1mの頂上に着いた(11:15)。峠からの標高差は270m、430mほど楽をさせてもらったのだ。

 

 ↓ 天狗山山頂

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 奥秩父方面だけ木立で見えないが、それ以外は330度の大展望。昨日午前中までの雨のせいか、大気の透明度が非常に高い。西には八ヶ岳が長大な全容を惜しげなく見せ、その手前にはこれから辿る山稜の先に、ポコンと男山が座している。スケールはともかく、それなりにきりっとした山容だ。八ヶ岳と良い対照をなしている。

 左に甲斐駒、北岳、振り返って遠くは浅間連山、最高の展望台である。15分ほど滞在して展望を堪能し、先に進む。

 

 ↓ 遠景は八ヶ岳全貌 手前が男山

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 ↓ 南アルプス北部 右甲斐駒と左北岳

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 ↓ 遠く浅間連山

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 その先もほぼ尾根筋を辿る。時おりの岩場のアクセント。さきほどまで見えなかった瑞牆山の鋸歯状の山容が見える。頂上右下は大ヤスリ岩。手前の送電線が少々目障りだが、やはり良い山だ。

 

 ↓ 瑞牆山 頂上の右の岩峰は大ヤスリ岩

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 ↓ 甲斐駒と北岳をズーム

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 ↓ 天狗山を振り返る。頂上そのものは見えていないか。

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 1時間ほどで垣越山1797mの標識(12:20)。ここはとりたてて言うほどのことはない。

 

 ↓ 垣越山頂上

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 ↓ こんな岩場があちこち出てくる。この先がビューポイント。

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 そのちょっと先の岩場がまた素晴らしいビューポイントで、前山を前景に五丈岩の金峰山から瑞牆山への連なりが美しい絵となって見える。振り返ると天狗山がだいぶ離れてきたことによって、その個性的な姿をあらわしてきた。

 

 ↓ 左金峰山五丈岩から再び瑞牆山

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 ↓ 右天狗山と左垣越山

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 やがて道が北側の山腹を回り込むようになると、ほどなく御所平への分岐に着いた(13:30)。地図(2.5万図)を見ると、男山山頂までまだ少しある。少し疲れも出てきた。一服して遅めの昼食を食べながら、今度は山と高原地図を取り出して見てみると、何かおかしい。この分岐の位置が2.5万図と全く違うのだ。おにぎりをほおばりながら数m進んで見上げてみると、どうもそのすぐ上が頂上のように見える。山と高原地図の通りに。

 またやって(やられて)しまった。2.5万図(や5万図)は地形図なので地形に関しては信用できるが、登山道に関してはかなりの確率で間違っているのは重々承知している。山と高原地図は登山道の位置や情報面では信用がおけるが、多くは縮尺が5万分の1なので、地形が読みにくく、行動中は胸のポケットに入れた2.5万図を見、ポシェットかザックに入れた山と高原地図を見るのはザックを降ろして休憩中というパターンなのだ。本来なら事前に両者を照らし合わせて、道の位置など確認しておくべきなのだが、よく行く山域ならともかく、あまり行かない所ではつい怠りがちになってしまう。

 やれやれ、ともかく昼食を食べ終わって目の前の急登を登れば5分で男山の頂上1851.3mだった(13:50)。できればここで飯を食いたかったが、しかたがない。あいかわらずの大観だが、八ヶ岳にはいくつか雲がかかってきた。10分ほど滞在して下山に移る。

 

 ↓ 男山山頂。大観は同様だが雲が出てきて、光線も少しぼやけてきた。

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 下山は手挽坂という小尾根というか山腹を下る。御所平までは700mほどの下りである。ほどなくカラ松林(植林)となる。落葉しているせいか明るい雰囲気で、案外気持ちが良い。カラ松そのものも意外に美しい。

 

 ↓ 手挽坂のカラ松林。腕とカメラのせいでどうも美しさが再現できない。

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間もなく山道は古い林道に出た。長く車は入っていないようで、歩きやすく、幅広いゆるやかな山道といった感じである。こうした林道歩きにありがちな単調さも、西陽を受けたカラ松や白樺、楢などの黄葉と、時おりの紅葉の織りなす美しさに、あまり気にならない。気持ちよくたんたんと歩を進めるのみである。

 

 ↓ 林道ではあるが、美しい黄葉の中を行く。腕とカメラのせいで…。

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 やがて予想通り、車止めのゲートというか金属製の扉があると、もうその先は舗装道路。時おり振り返りながら、カラ松林を含めた全山紅葉を愛でながら、信濃川上駅に向かった。

 

 ↓ 腕とカメラのせいで…。

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 ↓ 信濃川上駅から男山山頂を見る。

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 今回の天狗山から男山への縦走は、天候その他にも恵まれ、予想以上に良い山行となった。今回の山行は言って見れば偶然の産物である。だいぶ前から「行ってみたい山」リストには入っていたが、アプローチの点などから、実現性はそう高くはなかった。それが今回の立川会の西上州鍬柄山~廻り目平宴会の流れで、思いがけず実現できてしまったのである。企画世話人の、そして峠まで送っていただいた打田さんには本当に感謝します。

 西上州も佐久も久しぶりの山域だった。通いなれた山域も良いが、久しぶりの山域、やはりまだ経験したことのない山域というのは良いものである。さてこれからあといったいどれぐらい、未知の山域に足を運ぶことができるだろうか。

 

 

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【コースタイム】2018.10.28(日)快晴 単独

馬越峠10:00/10:10~尾根上に乗る10:22~巻道分岐10:42~天狗山11:15/11:25~垣越山12:20~御所平分岐13:30~男山13:50/14:00~舗装道路15:40~信濃川上駅15:55/16:43発