艸砦庵だより

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秌韻・外覧会-2 『花昏』『革命と慈愛』

 外覧会:美術館等での展覧会には、一般入場者とは別に、「内覧会」という、関係者を対象としたオープニングセレモニーがある。「内覧会」があるなら、逆に終わったあとからの「外覧会」があっても良いではないかと勝手に作った造語です。

 すでに終わった個展(「秌韻 河村正之展」 2019年 10月3日~11日 西荻窪 数寄和)。

 だが、先に『祝人(ほいと)』をアップ(これを外覧会-1とします)したこともあり、また会場に来れなかった人のためにと、「外覧会」と題してしばらく出品作をアップしてみようと思う。なるべく解説(コメント)は少なめに。さて、いつまで続くか?

 

『花昏』

M25(80.3×53.0㎝)  2016~2018年 自製キャンバス(麻布に弱エマルジョン地)、樹脂テンペラ・油彩

 

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 DM掲載図版。

 最近の個展等を見て「河村が人物、それも女を描いている」と驚かれることが多い。それについては、あまり言うべきことはない。いや、少しはあるのだが、まあ、ここでは省く。人物を描いた作品でも、ほとんどの場合、具体的なモデルはいない。

 「花昏(はなくら)」とは、花々がその華やかさゆえに、かえってかもし出す暗(昏)がりといったイメージの、私の造語。以前「夏昏(なつくら)」というタイトルを付けた作品もある。同じ趣旨の「光の闇」という作品も、いずれ描いてみたいと思っている。

 

 なおこの作品は、以前に中国人留学生から大量にもらった中国製麻布を使用しているが、日本製(フナオカキャンバス)とは異なって、大いに暴れる野性的なその表面の処理にてこずったというか、その苦労がちょっと独特の絵肌をもたらしてくれた。

 

 

 

『革命と慈愛』

 F15(65.2×53.0㎝) 2018~2019年 自製キャンバス(麻布にエマルジョン地)、樹脂テンペラ・油彩

 

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 「革命と慈愛」とは、苦しまぎれとは言え、われながらおおげさなタイトルを付けたものである。これも人物(女)を描いたもので、珍しく元になった画像がある。

 

 右の銃を持った女性のもとになった写真は、アルメニアのエレヴァンのアルメニア人虐殺博物館にあったもの。19世紀末と20世紀初頭の二度にわたってオスマン帝国領内で大規模な大虐殺が起きた。それは近代初のジェノサイドの一つであるとみなされ、今日に至るまでトルコとアルメニア間の最大のアポリア(解決困難な問題)となっている。以前から、トルコにもアルメニアにも行ったこともあって、この事件が妙に気になっている。

 20世紀初頭のそれについて少し知りたいと『神軍 緑軍 赤軍 イスラームナショナリズム・社旗主義』(山内昌之 1996年 ちくま文庫)を手にしてみるも、あまりの複雑さと基礎知識不足で途中で投げ出したまま。博物館の解説はアルメニア文字のみでちんぷんかんだったが、妙に印象に残った写真だった。

 左のそれはネット上で拾った、有体に言えばAVのそれ。

 右の女性のそれと共に顔やポーズ等、変えてある。別人として描いたのだが、見た人の一人から「なるほど、同じ女の二面性だ」といったようなことを言われた。そうか、そういう見え方もあるのかと妙に感心した。それは私の作品制作の基層にある「一致する不一致=聖と賤の一致」ではないか。あるいは女性性の二相系。

 ともあれ、女性の顔や表情の表現には苦労した。今見ても大いに不満であるが、これ以上やっても仕方がないということで完成としたが、こと顔と表情に関しては、欲求不満が残っている。思想的未消化ということだろう。     (記:2019.11.4)