艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

熊刺しと蜂の子

 久しぶりに熊の刺身を食った。やはり、美味かった!!

 

 正月も終わった一月半ば、教え子のS+Y夫妻が遊びにやってきた。二人は予備校時代の教え子で、美術系大学の出身だが、現在は養蜂業をなりわいとして、富山県を拠点としている。縁あって、彼らの作るハチミツを仲立ちとして、近年付き合いが復活した。ハチミツの方は女房が中心だが、関連して私の方も蜂の子やら、絵画材料としての蜜蝋などを分けてもらうようになった。

 そうした彼らの今回のお土産は、熊の肉!!

 

 ↓ 新鮮な熊肉。赤身と脂身のバランスが美しい。

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 彼ら養蜂業としては、熊さんとはなかなか友好関係は取り結べないようだ。詳しい経緯は知らないが、とにかく富山でも今年は熊の出没が多く、その結果、有害獣駆除の対象とされた熊のおすそ分けが私のところにも回ってきたということなのである。

 

 環境省の令和2年1月7日付の「クマ類の捕獲数(許可捕獲数)について」によると、四国・九州・千葉県をのぞいた北海道・本州で毎年1600~3900頭、平均すると3500頭ぐらいが捕殺されている。昨年令和元年の分は11月暫定値として全国で5424頭とあるから、ここ12年間でずば抜けて多い。これらの数字等についても考察すべき点はあると思うが、本稿の主題からはずれるので、ここではふれない。

 例年捕殺数が多いのは当然ながら北海道(351~827頭)で、次いで東北5県、中でも秋田県が多い(46~793頭)。これはマタギの伝統ということもあるかもしれない。言うまでもないが、北海道はヒグマ、本州ではツキノワグマである。

 東京都でも毎年0~5頭が捕殺されている。ニ三年前におすそ分けしてもらって、初めて刺身で食ったのが、その内の一頭だったわけだ。

 

 私は魚介類は当然、肉類でも可能であれば、まず生=刺身で食ってみたい。料理以前の、味付け加工以前の、それ本来の味を体験してみたいからだ。とはいえ、さすがに熊を刺身で食べる機会はめったにない。私はニ三年前の初体験で、その驚愕すべき美味さを知ったのである。二度目の今回も、食わずにはすまされない。

 むろん、寄生虫等を警戒する女房を筆頭に、周囲からはひんしゅくの嵐である。その視線をはねのけ、かいくぐりして、鹿刺しの、猪刺しの美味さを知ったのだ。いや、猪刺しはそれほどでも美味くはなかったが…。熊も当然、生で食わなければならなかったのである。「フグは食いたし、命は惜しし」ではないが、ジビエなんぞという、こじゃれた都会的美食とは、私は本質的に無縁なのである。

 むろん刺身だったら何でも美味いかというと、そんなことはない。個体そのものの条件、部位、何よりもシメ方と血抜きの仕方、さばき方、そして保存条件によって全然味が変わる。今回の仕留めた猟師は若いが、腕が良く、自信があるとのこと。しかも獲りたての新鮮な肉だ。期待できる。

 

 で、周囲からのひんしゅくもものかは。ニンニク醤油で一口。

 

 ↓ 若干見苦しくてすみません。もともとは公開するつもりがなく撮ったもので…。下、熊刺し、ニンニク醤油。上、蜂の子、塩コショウ・ニンニク・バター・醤油炒め。

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 「!!美味い~~!!」

 ひそかに危惧していた臭みもない。ほんのり、まったりと甘い。赤身と脂肪を同時に嚙みしめるとさらに美味さが増す。他と比べるのも野暮だが、しいて言えば馬肉、それもタテガミと言われる脂肪と赤みを同時に食べるときの美味さに少し似ている。

 S+Y夫妻と女房にも一応すすめてみる。恐る恐る箸を出し、「美味しい!」。しかし、二度三度と箸は出ない。まあ、文化の壁はそれほど高いのである。かつて日本人以外の諸外国の人にとって刺身の味わいが理解できなかったのも、当然である。

 しゃぶしゃぶ(熊しゃぶ!)から、鍋でも食ってみた。もちろん美味いが、熊でなければという必然性は特にない。

 

 ↓ 熊鍋。

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 途中で思いついて一応写真に撮っておいた。SNSで上げる気はなかったが、後で見るとその内の一枚に偶然だが、蜂の子(の塩コショウ・バター・ニンニク・醤油炒め)も写っていた。それを見て、この一文を書いてみる気になった。

 蜂の子はこれまで何回か送ってもらったのだが、巣から蜂の子を取り出すのが実に面倒くさいのである。おそらくよく一般的に「蜂の子」として売られている「地蜂=黒スズメバチ」のそれより、かなり面倒なように思われる。

 養蜂業者としては、蜂の子を、年間のある時期に作業過程として、巣ごと大量に廃棄するらしいのだが、私のためにごく一部を送ってくれるのだ。最初の時に巣から蜂の子を取り出すのに苦労して(その時の事は以前ブログにアップ済)以来、巣から取り出したものを送ってくれていたのだが、考えてみれば申しわけなかったことである。私にとって面倒くさいことは、彼等にとっても面倒くさいということに、思いが至らなかった。

 ともあれ昨秋に蜂の子を送ってくれた時に、一部巣入りのものが混ざっていた。面倒くさいが、それを処理せねばならない。

 さんざん経験済みだが、ほかのやり方も思いつかず、前回のやり方を再度試みてみる。まず自然解凍させたものを一つ一つ箸またはピンセットで取り出す。ああ、らちが明かない。あっという間にテーブルは悲惨な状態になり、即そのやり方は放棄。しかたなく、これも前回経験済みの茹でる方式に切り替える。これがどういうわけか、前回と違ってスムーズにいった。

 小鍋にお湯を沸かして、その中に蜂の子入りの巣をぶち込む。

 

 ↓ 巣が溶けた状態。黄色いのは巣の主成分の蜜蝋(ビーズワックス)。ここから一つ一つ箸でつまみ上げる。

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 すぐに巣は溶け、幼虫が浮き上がってくる。それを箸でつまみ上げる。幼虫には薄い透明な膜に覆われているので、それをピンセットでそっと破り、中の幼虫だけをつまみ出す。以下、これを延々と繰り返すだけである。

 

 ↓ 幼虫はは薄い透明な膜で覆われている。

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 ↓ 指でつまんでそっとピンセットで膜を取り除く。

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 慣れてくれば作業はスムーズにはかどる。前回は溶けた巣の蜜蝋がまとわりついたりして苦労したが、今回はそんなこともない。どこでどのように苦労したのか不思議だ。あるいは今回は一回での量が少なかったからかもしれない。

 

 ↓ プリプリしてかわいい。

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 ↓ こちらは巣の残骸、黄色いのが蜜蝋。それ以外は植物の繊維。蜜蝋も再利用できそうだが、いくらでも入手できるので、まあいいか。

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 茹でる=煮るといことで多少風味が落ちるようにも思えるが、薄い透明な膜に覆われているため、そのエキスは煮だされないものと思う。いずれにしても、これが手間はかかるが、最も簡単なやり方である。

 取り出したものはタッパーや瓶に入れて冷凍。調理は私の場合、一番簡単な塩コショウ・バター・ニンニク・醤油炒め。未来食品としての昆虫食のことはさておき、完全栄養食品なのだ。わずかに臭みはあるが、命の美味しい味がする。パスタに入れたり、蜂の子ご飯にしても良いと聞くが、なんせ女房が食べないので、まだ一人分を実行する機会が持てなくている。

 

 補足しておけば、熊刺しについてはニンニク醤油、生姜醤油が臭み消しもあって有効だろうが、むろん、山葵醤油でもお好みしだい。

 寄生虫云々に関しては、確かに鹿や猪については警戒すべきだが、そうした意味では熊も同様であり、決して人に勧めるわけにはいかない。一般常識としては、火を通して食べるべきであろう。食べて不調をきたしても、責任の取りようがない。したがって本稿はあくまで私個人の美味探求報告と思っていただきたい。

 なお、熊肉、蜂の子以外にも、天然のヒラタケ、手作りのカブラ寿司・・・もいただいた。どれも美味しかった。ありがとう!! 

                           (記:2020.1.15)