艸砦庵だより

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モロッコ・チュニジア-2 思いがけぬ「まえがき」

 ぽつりぽつりとモロッコチュニジア旅行記を書こうとおもっていた。

 必ずしも発表しなくてもよいのだけれども。手元の手帖には既にその時の覚え書きは記されている。

 

 そして、あのラ・バルドー(博物館)でのテロが発生した。

 

 あの素晴らしい空間を持つ博物館。そこに美しく展示されていた世界最高のモザイクの数々。ちょうど一カ月前、私はそこで同行の若い二人と共に、他にほとんど人のいない時間の中で、それらをゆっくりと驚嘆しながら見たのだった。

 

 旅には、なにがしかのリスクはつきものである。そうした意味で、私たちはただ運が良かったのだとも言えよう。

 しかし、このような、世界の中でニュートラルな場であるべき美術館・博物館もまたテロルの場とされうることに、私は深い悲しみをおぼえる。この私の悲しみに対して、テロリストの心情と論理は、それに応えることを拒絶するだろう。私は殺されうる対象としてしか存在していない。

 彼らの論理に共感することはできないけれども、その心情には、私にとって否定しきれないものがごくわずかではあるけれども在ることも、また事実である。岡本公三安重根。松陰の狂の思想。直接行動。今日の自爆主義に実際的形態を引用させた経済的公式制度としての特攻隊。テロルとは革命思想(弱者・貧者の論理)をその翳で裏打ちする方法論だからである。

 

 私の体験したモロッコでは、道行く女性の三分の一はスカーフ(ヒジャブ)やニカーブなどをまとわず、その美しい素顔を見せていた。チュニジアでは三分の二以上がそうであった。9.11の際、その映像を見て熱狂する中近東の大衆の姿もまた報道されたのを、吾々は見た。今回の報に接して、あの美しいチュニジアの街を歩いていた彼女たちは今、何を、どう思っているのだろうか。

 

 3月25日の新聞でラ・バルドーは29日から再開されると報じられていた。                        (2015.3.25)