艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

老醜酔惨~思いっきりコケた!

 某月某日夕方、そろそろ制作に取り掛かろうかとしていた矢先、電話が鳴った。福生在の画家M君からである。共通の教え子だったHが鹿沼から泊まりがけで遊びに来ているから、一緒に飲まないかとの由。異存はない。退職以来、社会的生活に縁が薄くなったおかげで、暮れ正月の忘年会新年会のお座敷も暫時減少し、今年はついに一つだけ。楽でもあり、寂しくなくもないが、自ら招いた事態であるから、文句もない。

 すでに暗くなった中、武蔵五日市~拝島~福生と電車を乗り継ぐ。ついでにいつものように駅を降りてから一瞬道に迷うも、何とかM君宅に到着。制作中の絵がないとかでアトリエではないのが少々不満だが、暖かい居間で、相変わらずノーテンキに美しい奥様をまじえ、楽しいひと時をすごす。ビールにはじまり、私はよく知らないが、NHKの朝ドラ「マッサン」で有名になったとかいう「竹鶴」というウィスキーを飲む。日本酒、ウィスキー、ブランデーは翌日に残るところが多く、ふだんはあまり飲まないのだが、「竹鶴」は口当たりもよく、飲みやすい。自ずと舌は滑らかになる。

 まあ、それは良い。やがて終電の時間も近くなり、おいとまする。煙草を買いがてらのM君の見送りを受け、ついでに教えられた、いつもとは違う牛浜駅へと向かう道を歩く。少々千鳥足であることは多少自覚しているが、良い気分だ。さて、このコンビニの右の駐車場を突っ切って、と、そこに大型トラックがやってきた。駐車場に入ろうとしている。こんな狭い駐車場に入るのか、あぶないね、気をつけなくちゃ、と思いつつトラックに注意しながら歩いていたら、地面から10㎝ほど飛び出している車止めにつまずいて、思いっきりこけた。

 真正面から地面に倒れる。一瞬、右手は柔道の「前受け身」のような体勢をとった。この体勢を取れないばかりに顔面からぶっ倒れた酔っ払いを、今までに二三回目撃したことがある。受け身が取れなければ、顔面強打、鼻血、鼻骨骨折とあいなる。左手は、バッグを左側にたすき掛けにしていたせいか、瞬間前に出なかったようだ。その分(?)左足が前に出たせいか、ひざを強打。右手と左ひざ、う~ん、なるほど、ギリシャ美学のS字曲線だ、などと考えている場合ではない。痛い。痛いのだ。右手、血はほとんど出ていないが痺れ、うずいている。まあ当然だろう。左ひざ、痛い。相当痛い。だが、歩ける。大丈夫だ。本当か? 半月板損傷? 骨折? ひび? まあ、大丈夫だろう。しかしこれで少なくとも明後日予定していた山歩きはまずダメだ、あ~あ。などと、らちもないことが頭を駆けめぐる。

 駅に辿りついたら階段が登れない。降りれない。手すりの有難味がつくづくわかった。ありがとう!手すり。

 そう言えば何年か前に、やはり飲み会の後に道路ですっ転んで、足を骨折したやつ(高校同期の旅仲間K氏)がいたなと思いだした。また私の義母も亡くなる二三年前(当時78歳ぐらい)に自宅の玄関先で転んで頭蓋骨骨折と股関節骨折という事態になったことがあった。前者は「(酔っぱらって)馬鹿じゃないの」、後者は年をとるとそんなことで大怪我をするもんなのかなあ?と、いずれも他人事でしかなかった。さして同情も覚えなかった。ああ、あれは他人事ではなく、自分のことだったのだ。時として私も酔っ払いである。気持は別として、60歳というのは必ずしも若くはない。深く反省。自分がそうなってみて初めてわかる辛さ。これを機に障害をもった人やお年寄りにはもっとやさしくしよう、などと思う。

 五日市駅の階段を歯を食いしばって下り、家までふだんの1.5倍の時間をかけて歩いて帰る。痛みは増してきているが、まあ大丈夫(かな)。帰宅後ズボンをぬいで見たら、なんとひざは直径5㎝ぐらいでズルむけて、出血。ズボンの裏をめくってみたら、ごっそりひざの皮膚がそのまま付着していた。よっぽど強打したのかな。右手は160㎝程度、左ひざはせいぜい4、50㎝ぐらいの高距離を円弧を描いて打ちつけただけなのに、これほどのダメージがあるのだ。自宅のアトリエで制作用の脚立から落ちて骨折入院休職したやつもいる(友人の奈良のF教授)。知り合いの大工さんからは大工の事故で一番多いのが、やはり脚立からの転落だということを聞いたこともある。

 ↓ 見苦しくて済みません。出血はたいしたことはないが、膝全体が腫れている。

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 とりあえず大型バンドエイドを貼って、肩こり用の湿布を貼って、絆創膏で止めた。

 関係ないけど数日前にサウジアラビアがイランと断交したというニュースを聞いた。今日のニュースでは北朝鮮が地下核実験をおこなった(らしい)といっていた。いずれも痛いニュースである。政治的に痛いニュースは必ず一般市民の身体的痛みをもたらす。まあどう見ても、今回の私の身体的痛みと世界の政治状況の痛みとは直接の関係はないのだが、そこを想像力でもってつなげていくのが、普遍性へと至る道であろうなどと、思ってしまうのである。

 

 教訓:いずれにしても強くて美味い酒は飲みすぎないこと! 行住坐臥、常におのれのありようを自覚すること、である。なんにしても早く治ってほしいものだ。今年の目標「月に2回の山行」が早くも崩れようとしている。                                    (2016.1.6記)