艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

ちょっと遅くなりましたが、「美術館探訪録・2015年-2 (海外篇)」

 少し前に「美術館探訪録・2016年(国内篇)」をアップした。「国内篇」を書いたからには「海外篇」も書かねばならない、昨年も書いていることだし。と、思って確認したら、ない。「美術館探訪録・2015年(海外篇)」はアップしていなかったのである。おかしい?確か書いた記憶はあるのだが。よく見て見たら、途中までは書いていたが、未定稿のまま埋もれていた。読み返してみて、思い出した。後半のアメリカの美術館の部分が書けなかったのである。

 もともとこの「美術館探訪録」を書くにあたっては、それほど分析的批評的観点で書く気はなかった。一種のコレクション自慢のような、軽い気持ちで書くつもりだったのだ。今でもそうである。自分の趣味を基軸としながらも、それでも結果として、多少はそれなりの観点が出てくれば幸い、というぐらいの気持ち。しかしふとした拍子に、歯止めがきかなくなるというか、その国の美術の基層に在る、特殊でもあり、普遍的でもある、意味合いのようなものに触れざるをえなくなる時がある。たまたまアメリカという国、アメリカ美術がそうであった。

 

 ○○美術ということで言えば、振り返ってみると、すべてとは言わないまでも、かなりのものを、多くはその地で、見たという気がある。イタリアルネサンスフィレンツェ派、ヴェネツィア派、シエナ派、フェラーラ派・・・)、北方ルネサンスビザンチン美術、印象派、北欧工芸、中国美術、東南アジア各地の美術、イスラム美術、アフリカ美術、アンデス美術、オセアニア美術・・・。

 ただ、アメリカ美術をアメリカに行ってトータルで見たことはなかった。アメリカに行かずともこれまでのさまざまな国内外の美術館や展覧会で見ている気はあるが、あれだけの大きさとなると、一度はアメリカに行かないとすまないような気はしていた。長くその思いはあったのだが、むしろそれゆえに、行くことを避けていたところがある。(アメリカという国があまり好きではない、ということもある)

 しかし、縁あって行ってみると、その体験をベースとして、やはりその特殊性と普遍性について考えざるをえなくなる。それほど難しい話ではない。事前事後共に、直観的には把握したつもりでいる。ただ、それこそがアメリカの特殊性であるところの、移民国家であるゆえの伝統を持たぬことからくるヨーロッパに対するコンプレックスと、その反動としてのアイデンティティーの確立過程、及びそれを可能にしたところの経済の問題、等を考え、いざ書くとなると、いくらサラッと書くにしても、やはりある程度の実証作業は必要になってくる。そして、そこでめげてしまったのである。

 

 途中放棄した本稿は、「アメリカ 財閥 第一次と第二次の両大戦を通じて 子供じみた所有慾」という、いくつかのキーワードをメモし始めたところで終わっている。いまさらながら、アメリカという国はでかい。ハドソンリヴァー派から始まって、アメリカンフォークアート、現代美術、そして異常ともいえる美術品蒐集慾等々、それらのアメリカの美術全体を、軽く、サラッと語ることに、あっという間に挫折してしまったのである。

 

 挫折は挫折でしかたがない。しかし、ここでこの稿をお蔵入りのままにしておくことは「美術館探訪録」のみならず、山の紀行・記録や読書のそれやも含めて、このブログの存在理由が危うくなるということにもつながりかねない(ちょっと大げさだが…)。

 ということで、思い出したのを幸いとして、この未定稿をそのままアップすることにする。しかし、よく見たら他にもいろいろと書きかけのまま放置しているものが、結構あるのである。なんか、書くということ、それは考えるということと同義でもあるのだが、そしてそれを(ブログで)発表するということは、なかなか大変な作業というか、エネルギーを要することなのだなあと、いまさらながら思うのである。

 

   以下未定稿「美術館探訪録・2015年 (海外篇)」

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 美術館探訪録を国内篇と海外篇とに分けて出すのは、何か少し嫌味な感じがしないでもない(わが内なるブルジョア趣味?)。しかし実際問題として、海外の旅では一日中朝から晩まで何ヶ所も歩くことが多い。その結果、数的にも増え、また中には名所旧跡的な所も含まれてきがちなので、分類上分けて考えたいのである。

 昨2015年に行ったのはモロッコ+チュニジアとアメリカ。延べ33日(←!)。それぞれのいきさつについては別に書いたからここでは略すが、いずれにしてもそこにある美術を見ることが最大の目的であったことは言うまでもない。

 

 以下、「*ここに記すのは基本的に入場料を払って行った美術館・博物館の展覧会である(中には無料のものもある)。寺院・教会・遺跡等も含む。一般画廊の個展等は含まない。」については同様。なお国内のそれと違って、海外ではいわゆる特別展は少なく、常設が中心となるので、記載形式が若干異なる。内容・規模的に一つとしてカウントするに足りないと思われるものは適当に+を付して他と合わせてカウントした。以上、私の分類趣味についての補注。

 

◆モロッコ+チュニジア

 モロッコ+チュニジア篇の写真については、完結していないが、すでに「モロッコ・チュニジアの旅 1~10」をアップしているので、省略

  1. マラケシュ博物館(+現代モロッコ絵画の展示)

  モロッコ/マラケシュ 2月3日 [建築・絵画]

  1. ベン・ユーセフ・マドラサ (+皮なめし職人地区/2月4日)

  モロッコ・マラケシュ 2月3日 [建築・工芸]

  1. ハビア宮殿

  モロッコ/マラケシュ 2月4日 [建築・工芸]

  1. ダール・シ・サイド(工芸博物館)

  モロッコ/マラケシュ 2月4日 [工芸]

  1. ディスキウィン博物館

  モロッコ/マラケシュ 2月4日 [工芸]

  1. マジョレル庭園+ベルベル博物館

 モロッコ/マラケシュ 2月5日 [工芸・デザイン]

  1. イブ・サン・ローラン・ギャラリー (+アグノウ門)

 モロッコ/マラケシュ 2月5日 [工芸・デザイン]

  1. ザアード朝墳墓群

  モロッコ/マラケシュ 2月5日 [歴史]

  1. エルバディ宮殿+ギャラリー

 モロッコ/マラケシュ 2月5日 [遺跡・写真]

  1. アイト・ベン・ハッドゥ

  モロッコ/アイト・ベン・ハッドゥ 2月6日 [遺跡]

 +ブー・ジュルード門

  モロッコ/フェズ 2月10日 [建築]

  1. ブー・イナニア・マドラサ+皮なめし職人地区

  モロッコ/フェズ 2月10日 [建築]

  1. ダール・バトハ博物館

  モロッコ/フェズ 2月11日 [工芸]

  1. 武器博物館

  モロッコ/フェズ 2月11日 [軍事]

 +マンスール

  モロッコ/メクネス 2月12日 [建築]

  1. ムーレイ・イスマール廟

  モロッコ/メクネス 2月12日 [建築・歴史]

  1. クベット・エル・キャティン+キリスト教徒の地下牢

  モロッコ/メクネス 2月12日 [歴史]

  1. ジャメイ博物館

  モロッコ/メクネス 2月12日 [工芸]

  1. メクネス博物館

  モロッコ/メクネス 2月12日 [工芸]

  1. ル・バルドー博物館

  チュニジアチュニス 2月15日 [歴史・モザイク]

  1. グランド・モスク

  チュニジアチュニス 2月15日 [建築]

  1. ポエニ時代の住居+ピュルサの丘

  チュニジアカルタゴ 2月16日 [遺跡]

  1. カルタゴ博物館

  チュニジアカルタゴ 2月16日 [考古・歴史]

  1. パレオ・クレチアン博物館

  チュニジアカルタゴ 2月16日 [モザイク・遺跡]

23.ローマ人住居跡+円形劇場

  チュニジアカルタゴ 2月16日 [考古・歴史]

 

◆アメリカ篇

  1. グッゲンハイム美術館 Doris Saicedo展+一部常設(展示替え中)

  ニューヨーク 9月16日 [近・現代西洋美術]

 

 ↓ ご存知、グッゲンハイム美術館の外観

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 ↓ Doris Saicedo は日本でも展覧会の開かれたことがある、コロンビア出身の女性作家で、社会性を持った優れた作品が多いが、コロンビアという国の歴史と文脈を知らないとわかりづらい。社会性を重視する作家のそこが辛いところでもある。

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 ↓ 同じく Doris Saicedoのインスタレーション

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  1. メトロポリタン美術館+エンパイアーステートビル

  ニューヨーク 9月16日 [総合+建築]

 

 ↓ メトロポリタン美術館の外観(だと思う) 実質世界最大の美術館。何でもあります。

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 ↓ こういうものに出くわすと、ドキドキする 正体は不明

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 ↓ オセアニアのコーナー  巨大な空間に膨大なコレクション

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 ↓ トーマス ・ハート・ ベントンの巨大な壁画の一部 この作品は知らなかった。

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 ↓ 私個人として、最も「アメリカ現代絵画」という気がしたのは、この作品だったかもしれない。

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  3.自由の女神+グランド・0

  ニューヨーク 9月17日 [歴史]

 

 4.ホイットニー美術館

  ニューヨーク 9月17日 [近・現代アメリカ美術]

 

 ↓ ビル・トレイラー こういうのを見るとほっとする。それにしてもアメリカではフォークアートやアウトサイダーアートが大事にされている、というか、いわゆるファインアートとあまり区別されていない。

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 5.ニューヨーク近代美術館MOMA)

  ニューヨーク 9月17日 [近・現代西洋美術]

 

 ↓ ホイットニー美術館だったかもしれない。反戦を扱った作品、つまり反体制アートのコーナー。こういうコーナーがあることに、アメリカのある種の健全さを感じる。それに比べて・・・

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 ↓ せっかくピカソの大規模な彫刻展をやっていたのに気付かず、閉館間際にやっと一部だけチラッと見ただけ。残念。

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 6. Agua Fria (PUEBLO LA PLAT Nationl Memorial)

  アリゾナ 9月18日 [遺跡]

  1. グランド・キャニオン (サウス・リム)

  グランド・キャニオン 9月19日 [自然・世界遺産

 +ヤバパイ博物館

  グランド・キャニオン 9月19日 [歴史・民俗]

 +グランド・キャニオン (ブライド・エンジェル・トレイル~プラ

  トー・ポイント)

  グランド・キャニオン 9月19日 [自然]

 

 ↓ グランドキャニオンのど真ん中。大いなる自然のアート。

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 8.  TUSAYAN博物館

  グランド・キャニオン 9月20日 [歴史・民俗]

 +ボックス・キャニオン・Lomaki Pueblo+Wupatki Pueblo

  Wupatki 9月20日 [遺跡]

 

 ↓ 旅の途中の車窓から。これもまた自然のアート。

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  1. セドナ国立公園

  セドナ 9月21日 [自然] 

 +モンテズマ・ウェル (Montezuma)

  モンテズマ 9月21日 [自然・遺跡] 

  1. グレイシャー・ポイント+センティネル・トレイル~センティネル・ドーム

  ヨセミテ 9月22日 [自然・世界遺産

 

 ↓ 大いなる自然のアート二題。

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  1. パノラマ・トレイル

  ヨセミテ 9月23日 [自然]

 +ミラー湖トレイル

  ヨセミテ 9月24日 [自然]

  1. アンセル・アダムス・ギャラリー

  ヨセミテ 9月24日 [写真]

  1. ゲッティ・センター

  ロサンゼルス 9月25日 [西洋美術]

  1. ロサンゼルスカウンティ美術館

  ロサンゼルス 9月26日 [総合]

  1. ロサンゼルス現代美術館

  ロサンゼルス 9月26日 [近・現代西洋美術]

 

 ↓ 美術館がでかすぎる!

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 ↓ アメリカ 作者未詳

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 ↓ わりと好きだった作品。この手の感じは60~70年代ぐらいに日本で誰かがやっていたのではなかったかな?

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  1. ノートン・サイモン美術館

  ロサンゼルス 9月26日 [西洋美術]

 

 

 といった按配である。当然ながらその国、民族性、風土性といった特徴を反映したものとなる。すなわちモロッコ+チュニジアでは(ローマおよびイスラム)モザイク、イスラム工芸・建築であり、アメリカではアメリカ近・現代美術と、近代以降の資本家の圧倒的な経済力によって蒐集されたヨーロッパを中心とした全方位の美術である。残念ながらアメリカでは街のギャラリーを中心とした最もコンテンポラリーなアートをあまり見ることができなかったのは、日程上やむをえなかったとはいえ、少々心残りではあった。

 

 さてモロッコである。文化的にはローマ文明からその後のイスラム文化の流れが基本であるが、私的には、初めてのアフリカということで、楽しみであった。

 モロッコには見どころが多い。1.「マラケシュ博物館」や5.「ディスキウィン博物館」4.「ダール・シ・サイド(工芸博物館)」など、日本ではあまり見る機会のない素晴らしいイスラム工芸を中心とした美術館は、いずれも充実した内容で楽しめた。マラケシュ博物館ではそうした伝統的なものと現代モロッコ絵画などが並べて展示されており、このやり方は最近海外で時々見るものだが、なかなか良いものだと思う。

 そうした伝統的工芸美術の中でも、この6.「ベルベル博物館」が白眉である。決して大きな美術館ではないが、この博物館があるマジョレル庭園を創設した画家ジャック・マジョレルから引き継いだ、イヴ・サンローランが蒐集した北アフリカ美術のコレクションは超一級品ばかり。さらに展示の仕方自体が現代的で、彼の作品と言いたくなるほど洗練されたものである。世界的デザイナーのエキゾチックなプリミティブ・アートの蒐集。思わずそれだけで反発したいところだが、脱帽するしかない。また、彼自身の作品(イラストレーションが中心)を展示した7. 「イヴ・サン・ローラン・ギャラリー」も意外なことに、たいへん面白かった。さらにマジョレル庭園自体が自然そのものを素材とした美しい美術作品というべきであり、ヨーロッパ人が抱くエキゾチシズムの具現化として見るのも興味深いものである。 

 その他、2. 「ベン・ユーセフ・マドラサ」や8.「 ザアード朝墳墓群」なども良かった。建築とはいっても、見どころはその壁面等の装飾であるが。また「皮なめし職人地区」は、工芸の生まれる以前の現場そのものといった観点から、興味深いものである。もっとも大多数の観光客のまなざしは、恐いもの見たさといったところだろうが。確かにインドあたりならスラムの一画にある光景である。

 

 私は旅において美術や風景、風土性といった興味の対象以外にも、いくつかのコンテンツを持っている。例えば物乞いのありようや、墓地、職業にかかわる差別、等々。モロッコでは職業・職人ごとにまとまったスークと呼ばれる地区が形成され、それらが隣接しあいながら旧市街(メディナ)の中に厳然と存在している。こうしたありようはモロッコに限らず多くの都市に見受けられる。かつての日本の一部においても同様であったのだが、そうした場合、古くからの市街の様態を保っているということがある程度前提のようだ。言うまでもなくマラケシュやフェズのメディナはおそらく中世以来のそのありようを保持していることによって、匂いや衛生面での問題にもかかわらず、その独特なありようを保持し続け、今日では観光の対象とさえなっているのである。そこに職業にかかわる差別が存在しているのかどうか、結局のところ、わからないのであるが、少なくともこうした過程をへて、あの美しいモロッコ革が造られるのだと知っておくことは、意義のあることだろう思う。そして結局のところ、あの迷宮としか言いようのない市街=メディナそれ自体、その全体が、アートだと思い至らざるをえないのである。

 

 チュニジアでは「ル・バルドー博物館」、その一ヶ月後の3月18日にあのいまわしいテロの舞台となったミュージアムである。古代ローマ時代のモザイクが中心。これまでトルコ、ギリシャとモザイクはそれなりに見てきたつもりだったが、新しい博物館だけあってそれらに比しても、質量、展示空間すべてにおいて素晴らしい。その素晴らしさゆえにISのテロの場に選ばれたということなのだろう。言うまでもなく、美術・文化といえどもそれが美術館・博物館という行政の場となったとき、畢竟政治や宗教といった思想と中立無縁ではないということである。しかし、それにしても・・・。

 カルタゴではやはりカルタゴ博物館が充実していた。当然モザイクもあるが、多様な考古的蒐集が楽しい。カルタゴと言えばハンニバルだが、この頃はまだ塩野七生の『ローマ人の物語』を読む前だったこともあり、遺跡等に関しては、興味が薄かった。

 

   ―以後未完

 

アメリカ 財閥 第一次と第二次の両大戦を通じて 子供じみた所有慾