艸砦庵だより

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四国の山旅―その2 次郎笈~剣山~一ノ森 (2018.4.26)

 4月26日(木)

 朝、薄い雲はあるが、晴れている。7時からの朝食を済ませ、車で登山口の見ノ越へ。宿泊施設や食堂、土産物屋などがある。

 靴を宿に置き忘れ取りに戻るというお粗末な一幕の後、駐車場わきの剱神社の石段を上がる。

 

 ↓ 剱神社の石段

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 見ノ越からは登山用リフトもある。それを使えば登り30分の地点まで上がれるということだが、さすがにそれは使わない。山は、特に尾根ルートは、なるべく下から登るのが正しいのだと今でも思っているが、実際に車道がかなり上まで上がっていて、それを使うのが定番となっていれば、やはり使わざるをえないことの方が多いのはいたしかたのないところ。

 ちなみに登り30分で頂上というのは、百名山の中でも最短だとのことである。しかし、それでなくとも見ノ越が標高1400mなのだから、1955mの剣山山頂まで標高差555mしかないのだ。リフトを使ったらバチが当たろうというものである。今回、少し前から膝を痛めていたというF嬢は、昨日の丸笹山では多少痛んだとのことだが、とりあえず予定通り行ってみるとの由。

 歩きやすい道は、私の勝手な予想に反して植林帯が全くない。快適である。

 

 ↓ 登り始め

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 なにやらいわくのありそうな、祠の置かれている巨岩の脇を通り、45分ほどでリフトの終点西島駅(9:10)。そこから中腹の大劔神社へのルートをとる。昨日と違って右に昨日登った丸笹山とその尾根続きの塔丸、そしてその左に明日登る予定の三嶺が見える。ともに良い山だ。

 

 ↓ 昨日登った丸笹山 

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 ↓ 三嶺遠望

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 大劔神社も背後に巨岩を背負っており、修験道の雰囲気がわずかに残っている。すぐ先に御神水の湧き出る泉と祠がある。日本名水百選だとか。なんだか私は、こうした何とか100選とかいうのを見たり聞いたりするたびに少し憂鬱になるのであるが、飲んでみれば味は良い。昼食用にと2ℓほど汲んだが、それは後にレトルトカレーとパックライスを湯煎するのに使われただけだった。

 

 ↓ 大劔神社と背後のお塔石

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 ↓ 左下の穴が御神水

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 振り返れば先ほど大劔神社の後ろに見えていた石灰岩の岩峰が迫力ある全容を見せていた。お塔石というらしいが、最長で40m、3ピッチぐらいか。直登するのもそれほど難しいとは思えないが、だれか登った人はいるのだろうか。大劔神社御神体というか依代とも見えるから、登ったとしても公表するわけにはいかないかもしれないが。

 

 ↓ 石灰岩の岩塔「お塔石」 登りたい!

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 すぐ先で主稜線と合流し、一服する。次郎笈が魅惑的な姿態をあらわにする。山が樹林帯ではなく笹原で覆われているのために、薄物だけを身にまとっているように、いっそうなまめかしく見えるのである。

 

 ↓ 魅惑的な姿態の次郎笈

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 ↓ 次郎笈峠付近

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 それなりに距離があるように見えたが、歩き出せば案外早く1893.6mの頂上に着いた(11:35)。展望は360度。申し分ない。

 

 ↓ 次郎笈山頂にて

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 ↓ 剣山遠望 左は丸笹山

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 三嶺へ延々と延びる縦走路は格別としても、それ以外の山々も魅力的に見える。徳島県は県土面積の75%が森林で、その62%が人工林(植林)とのこと。自然林のほとんどはこの剣山三嶺山系に集中しているとのことだが、遠くの山もかなり魅力的に見えるのはなぜだろう。ここに来るまでは、四国の山は植林帯が多く、魅力に欠けるというイメージというか先入観を持っていたのだが、実際に来てみなければわからないものだ。

 

 十分展望を堪能してから、剣山に向かう。頂上の直下から木の階段になり、三角点一帯はぐるりと木製の回廊。

 

 ↓ 剣山頂上直下

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 ↓ 三角点にはふれられない。しかし三角点に注連縄が張り巡らされているのは初めて見た。

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 植生回復のためであり、何よりも有名であるがゆえのオーバーユースがもたらした荒廃からすれば、やむをえない。こうした事態は百名山とは限らずとも、多くの特定の山で進行中の悲しい事態であるが、それもまた自然と日本人の、いや自然と人間とのかかわり方のありようの一面である。

 それはそれとして、それぞれの念願の、あるいは課題であった剣山登頂は、やはりうれしいことである。

 

 ↓ 一ノ森遠望

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 御神水によってあたためられたパックライスと三種類のレトルトカレーの昼食は、聞けばF嬢の非常用備蓄食料のローリングストックだとか。なるほど(?)、こういう使い方もあるのか。さらにコーヒーとデザートフルーツ付きときては、普段貧しい山の昼食に慣れている身としては豪華すぎる感があるが、まあこれはこれで…、美味しくいただいた。

 

 ついでに剣山といえば、ソロモンの秘宝という「トンデモ」的、「ムー」的話題がある。日ユ同祖論を背景とした失われた聖櫃や剣山=ピラミッド説などといった一種の偽史であるが、実際に戦前にはこの頂上一帯でそれを目的とした発掘調査が行われたとのこと。まあ、青森県に今でもイエスキリストの墓があったり、各地に徐福伝説が残っていたりするくらいだから、面白いと言えば平家伝説以上に面白いかもしれないが、かつてはともかく、今現在は私としては全く興味がない。ただし、今回ひょっとしたらその発掘調査の際の痕跡のようなものがどこかに残っていないかと見まわしてみたが、それらしきものは見当たらなかった。(これらの項目については馬鹿馬鹿しいので、これ以上ふれない。興味のある人は勝手に調べてください)

 

 頂上ヒュッテのトイレを借りにたち寄ってみる。ヒュッテはやはり祠の置かれた巨岩(宝蔵石)に隣接している。位置、名前からしてもかつてはここが信仰上の中心だったのだろう。ここ以外にも、点在するすべての巨岩にはなにがしかの祠が置かれているようだから、基本的に修験道=巨石信仰といった関係が言えるのだろう。ヒュッテでは連休の小屋開設に向けて、その準備におおわらわの呈であった。

 

 ↓ 頂上ヒュッテと宝蔵石

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 一ノ森に向かう道は、相変わらず笹原の中の歩きやすい道。

 

 ↓ 笹原にはいたるところに鹿の路が記されている。近い将来の食害が予想されている。

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 途中からしばらく栂などの針葉樹林帯になる。特有のターペンタインの芳香が、絵描きである私には懐かしく感じられる(ターペンタイン=テレピン油は油絵の溶剤の一つとして使われる)。ふと見ると足元に熊のものと思われる糞を見つけた。翌日の三嶺でも何か所か熊の爪とぎの跡を見つけたから、この一帯には確かに熊が棲息しているのだろう。

 

 ↓ 熊の糞

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 新田次郎が揮毫した遭難費のある分岐を過ぎればほどなく、一ノ森ヒュッテ。そのすぐ裏が山頂だった(14:20)。この日三つ目の山頂となればやや感激も薄れるが、ともかく山頂である。次郎笈、剣山と来し方を振り返る。

 

 ↓ 一ノ森ヒュッテ

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 ↓ 一ノ森山頂のグラサンの人と隠れている人

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  別ルートから再び先ほどの遭難費のある分岐に戻り、右のトラバースルートに入る。

 

 ↓ 白骨木その1 後ろは次郎笈

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 ↓ 白骨木その2

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 単なる巻き道かと思っていたら、源流部を横切るため、ガレ場ザレ場の通過が多く、それなりに危険性のある個所も多い。雪が多ければ雪崩道となるようなところが多いが、特にその痕跡も見えないから、雪崩れるほどの降雪量はないのだろう。

 巨岩と祠のある分岐から右に入る。後から知ったのであるが、このあたりは修験道の行場となっており、その跡を辿ってみるのも興味深いだろう。しかし今回は事前の知識もなく、ただ歩きやすいルートを選ぶのみに終わってしまったのは、少々残念だったかもしれない。

 

 ↓ 行場にある巨岩 名は知らず

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 キレンゲショウマの群生地と表示のある場所でそれらしきものは見えず、まだ季節的に早いのかと思った。あるいはそこに生えているほとんどただ一種類の群落がそれかと思って、後で確認したところ、それはトリカブトだった。キレンゲショウマその他は鹿が食べ尽くし、トリカブトのみ、有毒ゆえ鹿も食わずひとり繁栄しているということだった。むろんここに限らずいたるところに鹿除けのネットは張り巡らされているが、あちこちで倒れたりしていて十分には機能していないようだ。

 

 ↓ ひとり栄えているトリカブト

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 ↓ 名前を調べたが忘れた。確か、何とかオウレンとか。あまりに小さすぎて鹿も見逃したか。

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 最後の登りに汗をかくと刀掛けの松に出た。祠といくつかの石仏がある。

 

 ↓ 最後の登り

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 ↓ 刀掛けの松

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 ↓ 猿田彦とあるが、ちょっと珍しい図像。全体の形もあまり見たことがない。帰宅後しばらくたってから気がついた。「剣」をかたどっているのだ!

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 ここからはリフト終点からの正面登山道であり、にわかに大道となる。小休憩の後、西島駅からF嬢は大事をとってリフトで降り、私とKは朝登った道を降り、駐車場に戻った(16:23)。

 

 次郎笈、剣山、一ノ森と三つの山頂をめぐることで、変化のある面白い山歩きができた。久恋というほどではないが、長く登ってみたいと思っていた山である。14番目の百名山というF嬢も、有名山岳好みのKも満足そうだ。それぞれに充実感を抱いて宿に帰った。

 

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 【コースタイム】4月26日(木)晴時々曇り

見ノ越駐車場8:25~西島駅9:10~大劔神社9:40~次郎笈山頂1930m10:50/11:13~剣山山頂1955m12:07/13:17~一ノ森ヒュッテ14:10~一ノ森山頂1879.6m14:20/14:30~分岐の祠15:08~刀掛けの松15:28~西島駅18:46~駐車場16:23