前々稿の「レジェンドたちと登った西上州・鍬柄山」で書き落としていたというか、ちょっと気がついたことを二点、書きとどめておく。
一つはストックのこと(トレッキングポールと言うこともあるようだが、ここではストックで統一)。
昨今の登山、特に尾根歩きではストックが大はやりというか、ほぼ必携装備扱いだが、あれはいつ頃からそうなったのだろうか。長く沢歩きを主にしていて、その後しばらくの空白の後に尾根歩きを主とした山を再開したせいで、再開した時にはもう常識となっていたような気がする。
↓ 愛用のストック モンベル製 使い込んで塗装はほとんど剥げている。
↓ グリップの下、指先の当たるところには金属の冷たさを軽減するために断熱材(?)を養生テープで縛りつけている。
*サポートタイツは見苦しいので載せません。
そのころ自分自身が年齢などから、体力・反射神経の低下などを自覚痛感することが多かったせいで、ストックを手にすること自体にはさほど抵抗感はなかった。すぐにその有効性もわかった。ピッケルを手にしていた経験も長かったので、躊躇なくシングル(T字グリップ)を選んだ。その時、なぜ日本の山でダブル(I字グリップ)を使うのだろうと不思議に思った。ルートにもよるが、日本の山では藪や、やせ尾根、岩場、鎖場・ロープなどの複雑な要素が混在していることが多い。藪や岩場鎖場では時にストックは邪魔になる。ダブルストックでは往々にして危険である。
ダブルストックによる平地歩行がノルディック競技の夏場のトレーニングとして始まり、その有効性を認められて、近年新たな健康法として理論的にも確立され、新たな運動として独立したことも知った。しかしそれは基本的に平地でのことだ。
ヨセミテをはじめとする海外のいくつかの(観光用)トレイルを歩いてみると、その多くは老若男女が安全に歩けるように、平地に準じて幅広く整備された「遊歩道」なのである。そうしたところだと了解していれば、ダブルストックもトレランも、問題はあまり発生しない。
↓ グランドキャニオンのトレイル 幅広い。
↓ ヨセミテのトレイル 幅広い。
しかし日本の四季の変化の激しい、降雨量の多い、細い急峻な山道では話が別だ。多くの場合、藪、やせ尾根、岩場、鎖場・ロープなどがあることが多い。またそうしたところではない場合でも、少なくともダブルストックではシングルに比べて、山道の脇を二倍ほじくり返すことになる。以前泊まった北アルプス燕山荘の主人は夕食時のレクチャーでそうしたことによる登山道の荒廃、ひいては自然破壊というとことを切々と訴えておられた。私もその点は全面的に賛成である。
しかしその話を聞いた当夜の登山客のどれだけがその趣旨に賛同し、ダブルからシングルに替えただろうか。新ハイキングクラブの山行では、ルートによって(?)ダブルストック禁止とされていたのを見た覚えもある。むろん各自の身体条件やルートによっては、ダブルストックの方が有効な場合もあるから、一概には言えないのであるが。
二つ目はサポートタイツについて。これもほぼストックと同様な経緯で、ここ数年使い始めた。モノにもよるだろうが、現在使っているワコールCDXは非常に強力かつ有効なのだがその分、下腹部への圧迫が強く、毎回しんどい思いをしている。有効性と締め付けの苦しさを秤にかけて、着用すべきかどうか、いまだに少し迷い続けている。結局短い楽なコースでは着用せず、少し長いややハードなコースでは着用と、使い分けているのが現状だ。まあそれに関しては私のBMIが最大の原因なのだから、あまり文句も言えないのであるが…。
このストックとサポートタイツについて、前回の鍬柄山山行の際、途中から気づいて観察し、何人かに質問してみた。全員に確認したわけではないからおおよそのところではあるが。
ストックについては、山行自体が久しぶりの国井さんがダブルストック。これはまあ大事を取っての事だろう。ほかの人は持っている人の方が多かったが、そのおそらくほぼ全員がシングル。ベテラン組で持っていた人は間違いなくシングル。
サポートタイツについては、着用していない人の方が多かったようだ。ベテラン組はほぼ全員がサポートタイツを着用せず。
打田さんは一時着用していて、その有効性を大いに認めていたらしいが、冬用のそれを着用してみて圧迫による血流の悪さなどを感じ、現在は着用していないとのこと。
いずれにしても、ベテランほどダブルストック、サポートタイツを使用されないということだ。またダブルストックに関しては、前述したような日本の山でのむしろ危険性を指摘されていた。
それは長く山を続けておられて、ベテランとなった今に至っても体力・力量的に必要性を感じないということだろう。それはそれで素晴らしいことだ。しかし、ベテランとは言えない一般の中高年の登山者にあっては、遭難対策の面からも必要に応じて積極的に使うことは良いことだろうと思う。私の場合は、最近起こりがちな股関節痛に対する予防の面も大きい。
だが中高年とは言えない若い登山者にあっても、最近は当たり前のように使用しているのを見かける。正確な統計はわからないが、かなりの割合で使用しているのではないか。
彼らに本当にストックやサポートタイツが必要なのだろうか。登山は、程度はともかく、なるべく人工的手段に頼らないスタイルで登るべきである。そもそも、ストックなしでの身体バランス、サポートタイツを必要としない身体能力、体力をこそ、若い人は身に着けるべきではないか。ファッション性の観点はともかくとして、登山という行為そのものに目を向けて、道具・手段を自分の意思と思想で選びたいものである。
もう一点、これは鍬柄山の岩場でのことだが、岩場の取り付き点で全員が一斉にストックを縮め、背に落とし刺し(ザックと背中の間に差し込む)か、またはザック本体に(グリップを下にして)収納された。さすがだなと思った。昔の剣岳での、雪渓を登りつめた岩場の取り付きのシーンを思い出した。
↓ こんなところではストックはザックに、できれば本体の中にしまおう。
↓ こんなところではストックを使ったらかえって危険です。
岩場や鎖場では、邪魔になるストックを手から離しザックや背に収納することが必要なのだが、つい面倒くさがって、あるいはそうすべきだということを知らずに、手首にぶら下げたまま岩場鎖場を登る人が多い。ましてや二本の長いストックを片手で持ったり、両手首からぶら下げながら登る人を見ていると、本当に冷や冷やする。本人のみならず、振り回されるストックが後続の人にとっても危険だということに気づかない人が多すぎる。かくいう私自身、ちょっとした岩場では収納を面倒くさがることがないとは言えないが、あらためてそうしたフォームというか、ルーティンをさぼらないようにしようと自戒したのであった。勉強させていただきました。
(記:2018.11.6)