艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

小ペン画ギャラリー‐14 「をみな」

 振り返れば、「小ペン画」で描いた人物は、圧倒的に「女」が多い。8割以上か。

 小画面を描くにあたって、人物が格好のモチーフであると再認識したことについては、以前に別の場で述べた。ではなぜ「圧倒的に女が多い」のか。「女」でなければならないのか。

 

 私はタイトルに「女」ではなく「をみな」と表記することが多い。女、おんな、女性、婦人、娘、少女、乙女、処女(おとめ)、かく様々な表記のしかたがあるのに。

 「をみな」とは古語で、「若く美しい女性。女。」の意。少年を意味する(早くに廃れた)「をぐな」の対義語。平安時代に撥音便化され、「をんな」となった。結婚適齢期に達した若い女性は「をとめ」であり、両者は古くから混同されている。だそうである。

 

 私が描きたいのは、若い(アドレッセンス中葉の14、5歳から20歳代)女性なのだろう。別に思春期だとか、処女性とかにこだわる気はないのだが。なぜ若い女を描きたいのだろう。要は「若く美しい女性」なのだ。永遠の憧憬なのである。それ以上説明のしようがない。

 

 ときどき考える。宗教画―歴史画―肖像画という西洋絵画の伝統的ヒエラルキーの中で、描かれた人物の男女比はどうなのだろうか、とか。そしてそのヒエラルキーが解体されて以降の、つまり絵画が一般市民のものともなった、印象派以降に描かれた人物画においては。

 その前提として、そもそも画家という職業領域におけるジェンダーを無視するわけにはいかないが、それは一応ここでは措く。また、その後の、美大等への美術分野への進学者数において圧倒的に女性の割合が多くなった、現代においては。

 男が女を描く⇔男が男を描く。女が男を描く⇔女が女を描く。それらの割合と必然性。需要と供給の問題を言いたいのではない。人間表現の、モチーフ選択の際の必然性、根源を知りたいのだ。そして結局のところ、「永遠の憧憬」といったあたりに着地することになるのだろうか。

 

 ともあれ、今回選んだ6点にはテーマなどの共通性はない。選択において、特に基準とかあったわけではない。意味はまた別の話だ。描いてしまったことで、事態は決着している。とりあえず、並べてみよう。

ところで、「永遠の憧憬」とは個人的な趣味の問題なのか。もうしそうだとしたら、そこから普遍性への回路はありうるのだろうか。

 

 

119 マスクをしたままぼんやりしている植物の巫女

 2019.11.4-12 11.4×9.6㎝ 和紙・膠引き ペン・インク・水彩

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 本作を制作した時、すでにコロナ禍は始まっていた。それと関係があるのかないのか、覚えていないが、マスクをしている人物の絵は、たぶんこれが最初で最後だろう。

 

 

126 ポニーテール

 2019.11.16-18 10.2×8.2㎝ 和紙・膠引き ペン・インク

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 ポニーテールはなぜかあんがい好きな髪型の一つ。特に女子高生のそれは好き。ちなみに50年前の私の高校では、女子はショートカットか三つ編みとかでなければならず、ポニーテールは不可だったようだ。それが今に至るも、私のポニーテール好みの遠因なのか。画中では髪が妙な変容を見せているが…、たぶん意味はない。

 

 

297 感情装飾

 2020.6.3-5 14.8×10.5㎝ 水彩紙 ペン・インク・水彩

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 今回の6点の中で唯一発表済みの作品。タイトルの「感情装飾」は、新感覚派と言われたモダニスト横光利一の小説のタイトル。ただし小説自体は読んでいない。(戦前の)モダニズムという言葉に在るレトロな感覚からタイトルとした。それに呼応されたのか、ある方に買っていただいた。

 

 

299 司令官の若き妻

 2020.6.5-6 13.2×8.6㎝ 和紙にサイジング ペン・インク

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 NHKBSドキュメンタリーだろうと思うが、シリアかイラクでIS (イスラム国)が敗北しつつあった段階の映像にインスパイアされて。ある司令官の若い妻が、赤ん坊を抱いてと見せかけながら、投降をよそおって自爆テロをこころみたのだったか、結末は見ていないと思う。一種の悪夢ではある。

 

 

342 くるへるをみな

 2020.8.25-26 14.8×10㎝ 和紙風ハガキにサイジング ペン・インク・水彩

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 たまに観る、あるテレビ番組に出演する素人アフリカ系タレント(?)が、ある時、ソバージュとアフロヘアのミックスみたいなヘアスタイルで出ていた。そのボリュームと美しさに感動して、イメージを借用。絵柄、印象はまるで違う。タイトルは絵ができ上ってからの印象で。

 

 

351 東方のをみな

 2020.9.13-17 12×9㎝ 雑紙 ペン・インク・グアッシュ

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 これもBSドキュメンタリー(だったと思う)の一瞬の映像から。本題とは関係ない、背景にチラッと映っていた、エリザベス・テーラー主演の「クレオパトラ」のポスターだったのではないかと思うが、正確にはわからない。もしそうだったとしても、ポーズのイメージを借用しただけで、実際とは似ても似つかぬものになっている。ともあれ、ゆえに「東方(オリエント)のをみな」。

 

(2021.5.1)