「小ペン画ギャラリー-15 コラージュ」
「小ペン画ギャラリー」で人物を描いた作品を紹介することに、少々飽きた。人物を扱った割合が圧倒的に多いのだから、やむをえないのだが。
では次は「人物の登場しない絵」を出そうかと、リストアップしてみたら、案外面白くない。一点一点はともかく、共通するテーマや要素もなく、「人物が登場しない」というだけでは、何となく納得できる括りが見えてこないのである。
それらの中で、数は少ないが、コラージュを用いた作品群が、ある種のまとまりを見せていた。今回はこれだ。
ほぼ同時期に、ほぼ同じ技法で描いた一群で、この手のものはこれですべて。その後はこうした感じのものは描いていない。今後もしないと決めているわけではないが。
コラージュには、ピカソたちキュビストが創始したパピエ・コレという、異素材性・物質性に重点をおいた造形性重視のものと、シュールレアリストのマックス・エルンストが始めた絵柄・意味性をデペイズマン(置換)することを重視した(便宜的な言い方だが)コラージュ・ロマン的な傾向の二種類がある。後者の方が、現代に至るより広範な影響を及ぼしている。「解剖台の上のミシンとコウモリ傘の偶然の出会い」は、すでに現代の(絵画に限らず)表現の常数としてある。
とまあ、大上段に振りかぶった話でもないのだが、私はその二つの方向のどちらにもつかないが、しいて言えば、コラージュ・ロマンにやや近い方向で、20年前後前からドローンイング作品として制作してきた。絵の一部にコラージュするというやり方。今回の作品もその延長上のものである。
今回使っている印刷物の多くは、私自身の作品図版の一部である。作品集の試し刷りや、あまった個展案内状を再利用したもの。
「小ペン画」と言いながら、黒地の用紙の作品では、ペン・インクは全く使っていない。黒色の用紙ではペンとインクが効かないのである。
黒地の作品というのは何か、静寂とか沈痛といった感じがして、好きだ。描画材の載せ方には工夫が必要だが。これらの小ペン画からタブローにしてみたいという誘惑にも、少しかられる。
102 「夜の島 」
2019.10.27-28 15.6×10.3㎝ 黒色紙にコラージュ・修正白
今回紹介する9点中の3点は発表済み。その中で唯一本作が、遠隔地の方に買っていただいた。ありがとうございました。
103 「三角に囲まれて 」
2019.10.27-28 13.4×10.4㎝ 古アルバム台紙(黒)にコラージュ・ペン・インク・グワッシュ
使用している紙は80年ほど前のスクラップブックとして使われていた紙。経年変化もあり、危なっかしく、使いにくい紙ではあったが、そのムラムラの風合いの魅力ゆえに使用。
104 「夜の島‐星跡」
2019.10.27-29 12.5×9.5㎝ 灰色紙にコラージュ・ペン・インク・グワッシュ
参考:617 「浦圖(澪つくし)」
2012~2013 M120 自製キャンバス(中国製麻布にエマルジョン地)に樹脂テンペラ・油彩。
102~104の3点に用いた図版はこの「浦圖(澪つくし)」の部分。
本作には、それと意識したわけではないが、アルノルト・ベックリンの「死の島」からの淡い影響があるといえるかもしれない。だが構図や島々の形、配置等においては、曽我蕭白の真浄寺襖絵「楼閣山水図」ほかの水墨画を参照した。さほど似てもいないが。
参考:アルノルト・ベックリン「死の島」(バーゼル美術館蔵)
同名の作品に五つのバージョンがあるが、これが最も有名なもの。
109 「北辺の御堂」
2019.10.29-11.1 12.5×10㎝ 古アルバム台紙(黒)にコラージュ・修正白
同名のドローイング作品が別にあり、その作品の図版の一部を使用。
本作と、115、117に使用した紙は80年ほど前の写真アルバムの台紙。短い繊維を圧縮しただけのような紙で、脆い。描画材の載り、吸い込みも他と違い、気をつかう。まあ、普通の絵を描く基底材としては不向きな紙だが、何となくその特有の時代を帯びた物質感が魅力的だったのだ。
115 「北辺の小さな天文台」
2019.11.2-03 16.6×12㎝ 古アルバム台紙(黒)にコラージュ・アクリル・修正白
同じく同名のドローイング作品が別にあり、その作品の図版の一部を使用。
116 「トパーズを見る」
2019.11.2 12.4×9.9㎝ 黒紙にコラージュ・アクリル
中央のトパーズ(だったか?)と二つの頭部以外は自作の図版から。
117 「空の大三角-北辺の城壁より」
2019.11.2-03 12.5×16.1㎝ 古アルバム台紙(黒)にコラージュ・アクリル・修正白
左右の小さな円形は煙草のパッケージの銀紙。他、2ピース以外は自作の図版から。
164 「うつろいのイノセント」
2019.12.28-2020.1.4 13.5×9.4㎝ 和紙にマルチアクリルサイジング、ペン・インク・コラージュ・鉛筆・水彩・グァッシュ
四角の額状の部分が私の作品の一部。中央は本物のカゲロウの翅。正式な種類や名称は知らないが、蝶などもそうだが、季節になると自宅付近で時々拾い、コラージュ素材として何度も用いてきた。
下の図版はたぶんグレコの絵。展覧会チラシなどから切り抜いたものだろう。
165 「結晶柱の森」
2019.12.28 11.9×8.8㎝ 古雑紙にペン・インク・コラージュ・鉛筆・水彩・グァッシュ
三角と下の形が私の作品図版から。上の四つは教王護国寺あたりの両界曼荼羅の一部。胎蔵界だか金剛界だか、わからない。
この紙も戦前の古い雑紙で脆く、使いにくい紙。
(2021.5.22)