艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

山行記‐3 奥多摩・石尾根 倉戸山~倉戸山 (2015.6.2)

 腰を痛めた。

 10日ほど前に表参道のエスパス・ルイ・ヴィトン東京に、“Le fil rouge”(ル・フィル・ルージュ 赤い糸)という展覧会を見にいって、ある映像作品のブースに入った。そこは真っ暗で、目が多少慣れたと思ったあたりで慎重に椅子(と思われるあたり)に腰を下ろそうとしたのだが、そこに座板は無く、見事に硬い床に思いっきり尻もちをついたというわけである。係員はすっ飛んでくるし、相当バツの悪い思いをしてしまった。だから表参道とか、ルイ・ヴィトンとか、現代美術とか、嫌いなんだと八つ当たりもしたくなる。クソッ!

 翌日からお尻よりも、腰が痛くなった。腰痛、肩こりは常のことだが、ふだん以上に痛い。立ったり座ったりがけっこう不自由である。鍼にも二回行った。したがって山どころではない、はずだ。だが、私は行きたい。月に二度の目標はなかなか達成できそうにない。行けば心身共に浄化されることがわかっている。しかも梅雨入りが近づいている。すでに4日も延期している。天気が良いのはこの火曜までだ。人は、特に年をとってくると、無理しなければ山には行けないのだ(たぶん無理をしなければ、頑張らなければ、何事もできはしない)。今行かねば、一生後悔する(少々、大げさだが)。

 ということで、本来であれば前回の続きの河口湖北側の「大石峠~節刀ヶ岳~鬼ヶ岳」のプランを、「奥多摩・石尾根 倉戸山~倉戸山」に変更した。数日前にふと思い立って女房と、県民の森~奥多摩周遊道路~小菅の湯~鶴峠~甲武トンネルというルートでドライブに行き、その際月夜野第1駐車場から眺めた奥多摩湖越しの石尾根が妙にきれいに見え、急に行きたくなっていたのである。バス便の関係で出発時間が1時間半も違うし、行程も少しは楽そうだ。

 ↓ 数日前に奥多摩周遊道路から撮影。左手前が倉戸山。上部右へのスカイラインが石尾根。

f:id:sosaian:20150603222131j:plain

 起床6:30(その前に一度5時に目が覚めてしまう。なぜ俺は就寝、起床時間がコントロールできないのだ)。

 奥多摩駅からバス。倉戸口でバスを降り、道標に導かれて登りはじめる。集落を過ぎ、神社の脇から登る。良く歩かれた路。全コースを通じておほどかな尾根筋で、のんびり、安心して歩ける。予想以上に自然林が多いのが、うれしい。ハルゼミの啼き声や野鳥のさえずりでやかましいほどだ。不思議なことにその後ハルゼミの啼き声は13:30頃になるとピタッと一斉にやんで急に静かになった。そういうものなのだろうか。

 ↓ 小鳥の巣を拾った。外側は苔、中は黒い獣毛(?)。

f:id:sosaian:20150603222709j:plain

 倉戸山山頂1169.3mは展望がなく、特にどうということはない。以後も同様で、どうやらここは○○山という山頂よりは、あくまで石尾根という尾根が主体なのだ。榧ノ木山1485mも水根山1620mもていねいにその山頂を踏む。いずれもあまり山頂という感じはしない。

 そう言えばかつて尾根すじに密生していたはずのスズ竹が見当たらない。枯れはてた名残が散らばっているばかりだ。帰宅後調べてみたら、二年前の2013年に奥秩父の方で60年に一度と言われる笹枯れという現象があったとのこと。奥多摩でも同様だったのだろうか。昔から笹が一斉に枯れるのは飢饉の前触れとか不吉な現象とされていたということであるが。

 水根山からはおおむね長くゆるやかな下りが続く。単調と言えば単調。ところどころにある石尾根の名の由来である石灰岩の露頭がアクセントとなっている。4月中旬から5月前半であれば、新緑がもっときれいで楽しめるだろう。

 ↓ 倉戸山頂上。この時期、展望はきかない。

f:id:sosaian:20150603223052j:plain

 

 ↓ 榧ノ木尾根。こんな感じ。石尾根に合流してからはもっと幅が広がる。

f:id:sosaian:20150603222523j:plain

 そのころから例によって、以前に骨折自然癒着した右足小指が痛くなってきた。また、腰の痛みがひどくなってきた。それらをかばって歩いている内に、次第に体全体のバランスが悪くなり、足の裏、ふくらはぎ、太ももの前面、お尻の側面と、痛いというか、疲労が出てくる。情けないが、今の実力である。こうなるともう、苦行のようなもの。そう言えば、いつだって私にとって山登りは苦行に近い。たぶん修行なんだろうと思う。そう思えば、まあ納得は行く。

 城山、将門馬場のピークは割愛し、六ツ石山山頂1478.8mへ。頂上は「広々とした草原」とあったが、すっかり禿げていた。この時点で15:45。コースタイム(「山と高原地図」)によれば奥多摩駅まで3時間20分とある。休憩も入れれば駅着が7時すぎになりそうだ。奥多摩ダムへの最短路をとれば1時間45分。しかし下部は傾斜が急で、足腰には辛そうだ。山頂にあった看板によれば石尾根を使って駅まで2時間少々とある。「山と高原地図」とは1時間以上違う。考えた末に、予定通りの駅までの尾根コースを選択した。狩倉山、三ノ木戸山のピークは割愛し、痛む足腰をなだめすかしながら、結局2時間少々で駅に着くことができた。

 あとから考えてみたが、最近のガイドブック等のコースタイムは以前のものに比べて3割から5割多めに記載されている。昔のガイドブックの記述には「タイムは標準的な体力と経験の人を基準にしたもの」などとあるから、現在のような中高年や女性が主流となった現状からすれば、より実状に近くなったと言えるのだろう。

 今回出合った登山者は榧ノ木尾根で二人、石尾根で一人、いずれも単独の男性中高年。さて次は梅雨の合間をぬってどこへ行こうか。   

                           (2015.6.3)

 コースタイム】倉戸口バス亭10:05~倉戸山11:47~20~榧ノ木山13:35~水根山14:25~六ツ石山15:45~奥多摩駅18:20