艸砦庵だより

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早春の上州の旅‐①嵩山と三十三観音(3月7日)

 O氏に誘われて、群馬県の中之条~草津~長野原~四万あたりをウロウロしてきた。「チャツボミゴケ公園に行きたい」のだとか。なんだ?それ?

 そこは「冬季閉鎖中だが、ガイドを雇ってスノーシューを履けば行ける」とか、「良い百八観音がある」とか、訳のわからない言葉で私を誘う。彼は森や水や大地といった、自然とスピリチュアル(?)なものを作品のテーマとしている画家だから、動機としてはうなずける。まあ、いいか。いつものように、これも何かの御縁。

 

 最初に連れて行かれたのが、嵩山。なんでも三十三体の観音があるとか。要するに坂東三十三観音霊場の写し。それは良いが、これって登山ではないか。聞いてないよ。一応その用意はしてきているものの、O氏は山に関しては完全素人。嵩山は標高は低い(789.2m)が岩山で、鎖場もあり、おまけに少しばかり雪が残っていて、道は滑りやすい。

 とりあえず行けるところまでということで登り始めるが、案の定、彼の足元は危なっかしい。点在する石仏(三十三観音)を見ながら、主稜上の小天狗という730m圏のピークに立った。なかなかの大展望。そこから頂上までは30分程度だが、彼の登る気は失せたらしい。山屋としては後ろ髪を引かれる思いだが、まあ仕方がない。途中からの山腹コースを下ることにした。といって、こちらのコースの方が易しいということでもなさそうだ。残雪と湿った山道に何度も尻もちをつくO氏。お疲れ様でした。

 

 この日は前後して親都神社、龍澤寺、荷着場道祖神などを回ったのち、草津温泉に泊まったのだが、それらについてはまた別稿で。

 余談だが二人とも記念写真を撮る趣味がなく、気がつけば私の写った写真は1枚もなかった。

 

 

 ↓ 途中で見た榛名山

 

 いくつものピークからなる良い山だ。いつか登りたい。

 

 

 ↓ 小天狗のピーク、730m圏。

 

 浅間山や上信越国境の山々が遠望できた。

 

 

 ↓ 胎内潜り。

 

 今まで体験した胎内潜りの中で最も狭い。写真のO氏は結局断念。私は腹回りに関しては自信(?)があるが、長年の経験で思いっきり腹を引っ込めて身をよじって、何とか通過できた。

 

 

 ↓ 下山路にて。

 

 何やらつげ義春の漫画に出てきそうな一シーン。そういえば今回の旅自体がつげの貧乏旅行シリーズと似ている…

 

 

 ↓ 麓から見る男岩。男岩ね。なるほど…。頂上はその奥。

 

 

 ↓ 嵩山三十三観2番 十一面観音

 

 元禄15/1702年に麓に住み着いていた江戸の僧・空閑によって建立されたとのこと。現存の像の背面には「再建同年」とあるが、その「同年」がいつのことなのかわからない。そう古いものではなさそうだ。大正か昭和のものか。

 また三十三観音といえば多くは西国三十三観音の写しだろうが、ここは坂東三十三番の写しというのが、ちょっと珍しいのか?

 

 

 ↓ 嵩山三十三観10番 千手観音

 

 頭部に仏面があるが、これは千手観音。六手で、そのポーズが私にはちょっと珍しかった。

 

 

 ↓ 嵩山三十三観14番 十一面観音

 

 これも頭部に仏面があるが、二手で、十一面観音。たまたま光が面白く射していた。

 

 

 ↓ 嵩山三十三観16番 十一面観音

 

 こちらの千手観音は頭部に仏面がなく座像。六手の内の二手は他と同様にバンザイ型。

 

 

 ↓ 登り口にあった「岩登り禁止」の標識

 

 確か昔のルート図集などにはここのルート図が出ていたような。

 

 

 ↓ 同前 

 

 昔開拓されて山岳雑誌やルート図集などに記載されていた岩場も、その後登攀禁止になったところが多い。登山者、クライマーのマナー違反や、こうした地元の信仰心との軋轢があるようだ。

 岩登りに限らないが、自然の中の、私有地(山林)内などでの、確かにモラル・マナーに欠ける振る舞いを目撃することは多い。キャンプや釣りや、いわゆるアウトドアライフを単なる消費の対象として紹介するメディアの罪も大きいが、しょせんは自然とかかわる個人の倫理観や美学の問題に行き着く。地元の人の理解が得られなかったら最悪だ。あまり人のことを言えた義理でもないが、少し悲しい話ではある。

(記・FB投稿:2024.3.13)