艸砦庵だより

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旧作遠望‐4 大作‐その2

 「旧作遠望」は必ずしも「大作」中心というではなく、「時系列」にこだわるわけでもないが、まあ今回は前回の流れを受けて「大作‐その2」。

 前回投稿の「まなざしの中で 1・2」は研究生から博士課程在学中27~28歳のものだが、今回の3点はその少し前、修士課程2年目26歳の、修了制作と前後する時期のもの。

 婚約し、生活は苦しく、アルバイトに追われ、制作する時間がなかなか確保できない情況で、指導教官だったT先生にピシャリと言われたのが「河村君、100号ぐらい三日で描けなきゃダメだよ」。

 例によってその真意は深奥すぎて必ずしも理解しきれたわけではないが、まさにその当時の(今に至るも引きずっている)私の弱点のど真ん中を見事に射抜いたものだった。感服するしかない。

 例によってクソっと思い、修了制作用のM150号とは別に100号以上のキャンバスを3点用意し、ほぼ同時に取りかかった。三日は無理でも、一週間以内で描き上げてみせると意気込んだ。その時点で自分には無理だと思われるハードルにチャレンジ(この言葉は好きではないが)というか、ぶち当たってみるというのは、確かにある種の快感だ。ワールドカップでベスト8、ベスト4を目指した日本代表の気持ちがよくわかる(?)

 結果としては、1点はほぼ一週間で描き上げたが、2点はもう少し時間がかかった。しかしそれは発表の前に手を入れたということがあったからで、実質9割以上は一週間±αで描いた。私としては(今に至るも)異例の速さである。

 

 

T.24 「きざしのような like a sign

 1981‐1983年 F120(194×130.3㎝) 自製キャンバス(麻布に白亜地)に樹脂テンペラ・油彩

 

 1981‐1983年とあるが、発表直前に手を入れたため。実質的には一週間程度。

 (撮影の未熟さで、水平垂直がずれてます)

 

 

T.25 「きざしのめまい Symptoms of dizziness」

 1981‐1982年 F120(130.3×194㎝) 自製キャンバス(麻布にアクリルジェッソ地)に樹脂テンペラ

 

 これは当初は急いだが、途中からある程度ゆっくり描いたような気がする。

 

 

T.27 「めまいのような like a dizzy」

 1982年 F100(162×130.3㎝) 自製キャンバス(麻布に白亜地)に樹脂テンペラ・油彩

 

 これも実質的には一週間程度か、もう少しか。

 

 この体験から得たものは大きかった。計画性も手順も慎重さも大切だが、一気呵成の集中ということもまた重要なのだ。そうでなければ生まれない勢いやリズム。

 主題(?)や意味といったものは、この際重視しない。ある程度捨て置く。現れるものは現れるだろう。したがって、タイトルには「きざし、めまい」「~のような」といった曖昧なものとなるが、それはむしろある種の表現世界の自由さを担保するタームとなると、開き直ろう。いずれにしても、若く、体力のある時期にしかできなかった仕事だ。

 なおこの3点の間にT.26「たまゆらの変位」という修士課程の修了制作が挟まれるのだが、それは今回の趣旨とずれるので、あるいはまたの機会に。

 

(記・FB投稿:2022.12.11 ブログ投稿:12.21)