今回は「へんな男」というテーマ(?)。いや、テーマではない。テーマにもなっていない。何となくとらえどころのない、そのくせ何か引っかかる感じのものを選び出して並べてみたら、この言葉が浮かび上がってきたのである。したがって、解説のしようもない。
小ペン画を描きだしてから、人物をモチーフとする割合が多くなった。男とも女ともつかない中性的なものもあるが、女性の割合が圧倒的に多い。それは、女性のフォルムというか姿かたちが、いや正直に言えば、私にとっては、女性という存在そのもの(の不思議さ)が、おのずと何かしらのイメージを紡ぎ出すというか、あるイメージに結びつきやすいからであるように思われる。
それに対して、男性をモチーフとしたものは、どこか具体的なイメージを紡ぎそこねる感じがする。
あらかじめ用意した、結果としての思想やメッセージといったものとは異なった次元で湧き出てきた、そういうイメージというか、妙な気分というか、心境というか。だが案外そんな状態の時に、普段は気づかない何か神秘めいたものを感知することもある。
ああ、やはりうまく言えない。
小ペン画は「小さな世界」なのだ。思想やメッセージ未満の、かたちと彩でとらえた短い詩なのだろう。
無理にカテゴライズすれば、もっと出せるのだが、今回はここまでとしよう。
91 「うつせみ」
2019.10.21 11.7×8㎝ ファブリアーノクラシコ?に膠引き ペン・インク・顔彩・色鉛筆
うつせみとは「蝉の抜け殻」、「この世に現に生きている人。転じて、この世。現世。うつしみ。」というのが一般的な定義だが、私は「魂が抜け去ったさま。気ぬけ。虚脱状態。」という少数派の定義の方を、より重く信じていた。枕詞としては「蝉の抜け殻」からきたと思われる「うつせみ-の」で、「はかないこの世の意の〈よ(世・代)〉にかかるようになった。」とあるから、それはそれで必ずしも間違いではないだろうが。
虚ろな実存の身体を綾なすもの。
183 「窓辺の画家」
2020.1.14 15.3×9.1㎝ インド紙にペン・インク・色鉛筆
画家の像ではあるが、自画像ではない。
あまり私らしくはないが、少し好きな作品。
198 「想い」
2020.1.27-29 10.9×8.9㎝ 和紙にペン・インク・水彩・グアッシュ
「想い」ではあるが、その内実はわからない。私にも、誰にも。
231 「呆然と天をあおぐ」
2020.3.13-14 12.5×9㎝ 洋紙に和紙貼り・ドーサ・裏面ジェッソにペン・インク・セピア
呆然とする、ということは、そう悪いことでもないと思う。
256 「ほほえむ修行僧」
2020.4.10 13.1×8.9㎝ 古雑紙(御朱印帖)にドーサ、ペン・インク・水彩
僧というのはどのような宗教であれ、不可思議な存在で、気にかかる。
この絵に描かれているのは、しいて言えばモンゴル仏教の密教系の禅僧であるように見える。むろん教義的にはそんなものは存在しないのだが。
背景の花などがある薄暗がりが、彼の帰属する宗教の世界か。
269 「君歩めかし 弱ければ」
2020.4.28-5.4 14.8×10㎝ 雑紙(エンボス入り)にペン・インク
弱い者は幸いである。弱いがゆえに、日々誠実に歩み続けなければならない。
最後まで色をつけるかどうか迷った。色をつけた時の在りようはほぼ正確にイメージできるが、今でも迷っていると言えば、迷っている。
(記:2020.9.13)