艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

小ペン画ギャラリー12 「近作」

 昨年11月の西荻窪の数寄和の個展「小さな世界」では、描きためた10㎝前後の小ペン画400点の中から、120点ほど並べた。

 この一年半は不思議なくらい、小さなペン画の制作に明け暮れた。おかげで本道のタブローは、全くと言っていいほど進まなかった。表現衝動というものはその時どきなのだから、問題ないと言ってもよいのだが、昨年度描き始めた、小ペン画以外の作品(タブローとドローンイング)がたった5点というのは、いくら寡作の私でも少なすぎる。それ以前から描き継いで完成させたものはもう少しあるにしても。

 その時どきの表現衝動以外にも、制作の流れには、全体の流れのバランスや、外部からの要請ということがないわけではない。

 とはいっても、なかなか憑き物が落ちないというか、(大きめの)タブローを描きだす気になれなかった。少々焦りのようなものを覚え始めたころ、年が明けたらス~っと、憑き物が離れて行ったという感じになり、何とかタブローに向かい始めることができるようになった。

 以後、毎日ほぼタブローだけに向き合っている。小ペン画は描いていない。F100、F50、F30・・・。まだ下絵や下描きの段階。私は筆が遅い。

 

 おまけに時を同じくして、何度目かの六十肩、首(頸椎)痛に見舞われ、首、肩が痛い。右腕が上がらない。首が回らない。筆を持つのは、せいぜい一回15分が限度。絵描きとしては悲惨である。薬を飲んでも、鍼を打っても、気休め程度。寝ていても右側には寝返りが打てない。ついでに腰痛もぶり返してきた。これが年を取るということだろう。困ったもんだが、しかたがない。

 

 それはそれとして、個展以後も年明けに中断するまで、40点余りのペン画を描いた。振り返ると不定期にFBにアップしていた「小ペン画ギャラリー」もその11でストップしている。個展アナウンスの一環としていくつかはアップしているが、少し久しぶりに気分転換を兼ねて「小ペン画ギャラリー - 12」をアップしてみようか。

 統一テーマは、近作ということ以外に、なし。そういう時の常で、作品選定は女房。「少しあっさり系を選んだ」とのことです。

 「あっさり系」というのは造形的に言えば、余白が多く、(某知人の言によれば)空間に張りのあるもの、ということになるのだろうか。私自身はあまり関心がない概念だが。テーマ的に言えば、宗教性や幻想性のあまり感じられないもの、ということらしい。そうですか。それはそれで…。

 

 

 ↓ 414 「楽師」 2020.12.3-8  14.7×9.9㎝

和紙風ハガキにドーサ、ペン・インク・セピア・水彩・ガンボージ

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 ↑ 南蛮図屏風や洛中洛外図などに描かれた南蛮人のズボンの形が気になっている。直接には11月に東京国立博物館で見た「桃山 天下人の100年」展で見たそれらにインスパイアされたか。しかし図録は買わなかったので、イメージ記憶。あまり見たもの(の再現)にとらわれないほうが良い。

 なお412,416も同様だが、本作では何色かのカラーインクを使ってみた。褪色性の観点から言えば、従来のNewtonなどの染料系カラーインクは絵画作品には使えないのだが、ある人から万年筆メーカーの出している顔料インク等で使えるものがあると聞いて使ってみた。一応耐光テストは実施中で結論は出ていないのだが、確かに以前のものより耐光性は良いようだ。色数が少ないのは仕方がない。

 

 

 ↓ 416 「冬の帽子」 2020.12.4-5 11.6×8.5㎝ 

  インド紙にドーサ、ペン・インク

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  ↑  特にコメントはないが、描き終えてみると、一回だけ偶然に知り会ったネパールとのハーフの女の子の記憶が反映されているようだ。アーリア人系の堅気の子だが、首筋にクレーの「忘れっぽい天使」のタトゥーをしていた。

 

 

 ↓ 412 「揮発の歓喜」 2020.12.3-5  15×10.5㎝

水彩紙にペン・インク

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 ↑ 「まづもろともにかがやく宇宙の微塵となりて~」(宮沢賢治)とは直接関係ないが、まったく無縁でもないイメージ。

 

 

 ↓ 425 「静思」 2020.12.17-19 11.8×15.4㎝

 台紙に薄和紙・マルチサイジング、ペン・インク 

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   ↑ 「瞑想」でもよいのだが、少し抹香臭い。もう少しささやかであどけない「静思」。

 

 

 ↓ 428 「独誦」 2020.12.19-20  13.5×9.2 

 和紙に着色・マルチサイジング、ペン・インク・グアッシュ・水彩・ガンボージ色鉛筆 

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  ↑  NHKBSでやっていたエチオピアキリスト教コプト教)の巡礼者たちの一シーンから。とても(一般的にイメージされる)キリスト教とは思えない、呪術的な感じだったが、かえって周縁性・多様性の豊かさといったものを感じた。「読誦」であれば仏教系の言葉だが、そこを「独誦」と読み換えた。

 用紙は、ある人が顔料+アラビアゴムあたり(?)で下色をほどこした和紙。かなり強い色調と筆触だったので扱いにくかったが、何とかその効果を少しは生かせたように思う。

 

 

 ↓ 431 「モダニズム絵画とをみな」 2020.12.20-21  14.7×10㎝

 和紙風ハガキにマルチサイジング、ペン・インク・セピア・色鉛筆 

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  ↑  半ば放心状態の女性。背景の意匠は抽象と色彩ということ。後期のキュビズム各派とかロシア構成主義などのイメージ。まあ、彩りとして選んだのかな。

 

 

 ↓ 801(小ペン画とは別の方の作品番号) 「静かに崩壊するニルヴァーナ(仮題)」 F100 

 自製キャンバス(麻布にエマルジョン地)に樹脂テンペラ・油彩

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  ↑  作品の制作途中、まして描きはじめ段階は、恥ずかしくもあるし、まず公開しないのだが、大きめのタブロー制作に復帰したことの証しとして、部分だけアップします。

 基本的にある程度以上の大きさのタブローは、1/2程度の下絵・下図を作る。5割前後の構想が見えてきた段階で、キャンバスに転写し始め、以後キャンバスと下絵の双方を行き来する。ある程度進めたら、下絵にはこだわらず、キャンバス上でどんどん変更していきたい。そうしないと絵が硬くなる。なかなかうまくいかず、2,3年ぐらいかかるのは普通。本作も完成はいつになることやら。だから毎年大作込みの個展は難しい。          

(2021.1.28)