艸砦庵だより

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旅のカケラ「山形の旅から」(2022.5.26)

 写真、カメラ、撮影が苦手なのは昔から。最近はそれでも少しは人間が丸くなってきたのか、写真を撮ることも増えてきた。だが、スマホと、コンパクトデジカメのオート以外は使えない。

 写真と撮影の基本スタンスは、資料として。制作や、研究・考察のための資料であって、写真それ自体を自分の作品や、アートや、楽しみとしてとらえてはいない。

 だが海外を旅するようになり、またスマホを使用するようになって以来、写真を撮る機会が増え、いつしか「資料」の範疇におさまりきらぬ写真も増えてきた。そうした範疇と目的のゆらぎは、自分でも少し興味深い展開ではあるが、まあそれは、今は措く。

 ともあれ、そうした資料ではないが、どこか捨てがたい味わいの、旅先で拾ったいくつかのカケラ。旅にはいくつかの実際的な目的も含まれているが、ほんらい旅すること自体が目的なのだから、「資料(のため、として)」という目的意識性とは別の、こうした旅のカケラこそがその旅の味わい、匂い、印象を形づくるものなのだろう。先日の山形の旅でひろった、そんなカケラをいくつか取り上げてみる。

 

 

1. 山形は人が少なく、土地は広く、広い道路が山林と接している。七十歳近い、運転免許を持たぬ我々二人が自転車でヒーヒー言いながら走っていると、路傍にこの木、花が現れた。

 

 高い杉の木のてっぺんまで藤の花が満開。およそ山村では、藤は木を締め付け殺すとして嫌われ者。道路際の半端な立地条件がゆえに、こうして放置され、大きくなったのだろう。ここまで大きくなると、家主である杉の木を乗っ取って、堂々たるメルヘンである。

 

 

2. 同上、少し拡大。これは絵になる。

 

 

3 地元に住むIは見慣れているためか、興味を示さず、通り過ぎようとする。私はあわててこの千載一遇の景を撮るために自転車を止めた。

 

 

4 I氏宅の近所にあった洋館の廃屋。ウン十年前のこの地方には珍しい洋風建築で、幼いころの彼の異国趣味をかきたてたとか。手前には煉瓦造りの暖炉があったことを示す構造が見える。新しいガードミラーとの対比。

 持ち主は地元の名士だったが、その後、熱海の芸者(?)との色々な事件(?)など、まさに江戸川乱歩的な物語もあったらしいが、詳しくはわからない。

 

 

5 同上、裏手の棟続きの建物。こちらは旧来の茅葺の田舎風で、全体としては和洋折衷の家だったようだ。現在は廃屋となって、無常の感をそそる。

 

 

6 その近くの耕作放棄された畑の、一面の、何の花だろう。シシウドに似ているが違う。これはこれで、無常の影をたたえた美しさ。

 

 

7 天童市雨呼山を登りに行った時の景。山間の集落から沢を渡って、山仕事に向かう路にかかった橋。それなりに立派な造りだが、最近は渡る人も少なそうだ。その先の山路も草深い。

 

 

8 村山市大淀の羽黒神社に登った。標高差70mほどの山頂の羽黒神社の脇に、小さな弊社が二つ。その前に置かれた燈明立て(正式名称は知らない)。

 穴の開いた石を重しの基礎とし、太い番線を通して手作りしたもの。機能と目的を追求したプリコラージュ。ほぼ絶品の造形と言っていい。

 

 

9 ついでに、その隣にあった別の弊社の燈明立て。こちらは完全手作りとはいえないが、小さいだけに民芸風の味わいのあるもの。

 同様のものはアジアの仏教・ヒンドゥー教圏や、西ユーラシアのキリスト教圏等にもある。そもそも、なぜ人は神仏の前で灯を灯すのか。花や香や楽曲やお経などと同じく、供養、捧げものの一形態だということはわかるけれども…。

 

 

10 同羽黒神社、本殿外壁に浮かび上がった模様。

 打ち込まれた釘の錆(鉄分)が染み出した「クサレ」だという。李禹煥の作品ではないが、彼の意図したところと通ずるものがある。作為したものではなく、モノ自体があらわに発現するコト。芸術ではないが、アートの領域だ。

 

 

11 村山市を流れる、というよりも、山形県を代表する大河、最上川が大きく蛇行する、大淀と呼ばれるところ。惜しむらくは対岸の左側の樹々が大きくなり過ぎて、葉山の全容が見えにくいこと。それはそれとして、水量豊かな川の中流域というのは、良いものだ。

 

 

12 村山市の白鳥城址

 なんの予備知識もなく、出会った看板に導かれて登ってみた城址、白鳥城。

小さな山城か山砦といった規模。戦国時代にあまり興味はないが、現地に佇めば多少の感慨がなくもない。

 

 それとは無縁に、疲れ果てて、最上川の対岸の奥羽山脈方面を眺めるI氏。ベレー帽の横から白髪がのぞいている。フリードリッヒの絵のような。悠久の山河と無常の城址。絵描きと光と風。