艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

「信州の山と石仏の旅」

 9月7~13日、信州を旅した。蓼科、別所温泉木曽駒ヶ岳乗鞍岳、そして諏訪市茅野市の石仏探訪。

 

 前半は高校山岳部OB・OG会の仲間と、蓼科の山荘ベースの行動。

 初日は天気が悪く、上田市の戦没画学生慰霊美術館「無言館」や別所温泉周辺のあちこちをまわった。無言館については淡い縁があった。ようやく訪れることができたが、絵描きとしてはそれなりの覚悟が必要だった。

 

 ↓ 戦没画学生慰霊美術館「無言館」の外観。近くに第二展示館「傷ついた画布のドーム」がある。内容は深く重いが、それ以上に、一人一人が見て、考えるべきものである。

 ↑ 無言館の前段の『祈りの画集 戦没画学生の記録』(1977年 日本放送協会)を作った、野見山暁治さんには学生時代に直接教わった。詩人の宗左近さんには、縁あって拙著『メッセージのゆらぎ 博士論文+作品集』の序文を書いていただいた。無言館館長の窪島誠一郎氏には45年ぐらい前、渋谷(だったと思う?)のキッド・アイラック・ギャラリーに靉光展を見に行った時に、少し話をしたことがある。また、直接関係はないが、窪島氏の実父の水上勉の「越前竹人形」の人形は私の予備校時代の友人が作っていた。

 

 二日目、三日目は、木曽駒ヶ岳乗鞍岳登山。局地的に不安定な天候に翻弄された。個人的には予定外の山だったが、結果的には天候に恵まれ、久々の日本アルプスを登った。

 共にバスやロープウェイを使った、登高差300m程度のカンニング的な登山ではあったが、まあそれはそれ。歳相応の登り方かもしれないが、ヨレヨレになった。木曽駒ヶ岳は38年振りの再登、乗鞍岳は久しぶりの50座目の日本百名山

 

 後半は上諏訪を拠点に、諏訪市茅野市の石仏探訪。久しぶりに古い知人と再会し、旧交を温め、その案内で暑い中、あちこちと周る。石仏王国信州ならではの濃くも充実した内容で、やはりヨレヨレになった。

帰宅後、撮りまくった石仏写真の整理・分類・研究に追われることになった。

 一週間の旅だったが、内容が濃すぎて、とりあえず今回は二つの山についての投稿。石仏その他については、また次の機会に。

 

 

 ↓ 9月9日、中央アルプス木曽駒ヶ岳に登る。

 ↑ バス、ロープウェイを乗り継いで千畳敷カールから登り始める。八丁坂の登高差300mでヨレヨレ。いや、私が遅いのではなく、他のメンバーが早すぎるのだ。長い距離ならそうひけを取らないのだが、短時間ではかなわない。

 

 ↓ 八丁坂を上り切った乗越浄土から木曽駒山頂を目指す。右は途中の中岳で、木曽駒山頂はその陰で見えない。

 

 

 ↓ 38年振りの木曽駒ヶ岳山頂、2956.1m。4学年にまたがっているが、山登りを生活のメインにすえている(?)人は強い。私は弱い。



 

 ↓ 木曽駒ヶ岳山頂には三つほど石仏(石造物)があったが、これは蚕神。馬に乗り、桑の葉を持った女神。細部までよく彫られた、美しく面白い像。造立年等は不明だが、そう古いものではないだろう。

 ↑ 養蚕の仏としては馬鳴菩薩があるが、養蚕の盛んだった地域にはそれよりも多く「蚕影山」、「蚕玉神」といった文字塔、あるいはこうした桑の葉を持つ女神や、天敵のネズミを捕る猫や蛇までが蚕神として造形された。蚕の神のルーツには中国東晋の時代の『捜神記』の中に「馬の恋」があるが、そのイメージに通ずる造形である。

 余談だがこの像を紹介している田中英雄の『里山の石仏巡礼』(2006年 山と渓谷社 MY BOOKS)では裏焼きされた(左右逆の)写真が使われている。

 

 

 ↓ 同じく木曽駒ヶ岳山頂にあった、おそらく宝珠を持つ地蔵でないかと思われる像。基礎に「○長(?)○講」とある。造立年等、不明。

 四頭身ほどの可愛らしい像だが、光線の具合か、少しさびしそうに写っているのが残念というか、面白い。



 

 ↓ 登り終えて途中まで同じ道を辿る。中央が中岳、右の三角形が宝剣岳。中岳を右に巻く道を行く。

 

 

 ↓ 下山時のロープウェイから見下ろす中御所谷本谷。ゴンドラの窓ガラスの反射が写り込んでいる。

 手強そうな滝が連続するが、38年前にはあそこを直登していったのだ。当時所属していたY山の会の夏合宿。結婚はしていたが、まだ博士課程の学生だった頃。

 

 

 ↓ 9月10日、バスで北アルプス乗鞍岳へ、写真の畳平2700mまで上がる。

 高い所までバスが登りロープウェイやリフトが架けられ、それを利用して山頂に立つというのは登山者としてはいかがなものかとは思うが、今ここでそれを言ってみても仕方がない。今回の誘いが無ければおそらく一生登らずじまいだったろうとは思うが、登ってしまった。むろん、山そのものは素晴らしい。

 

 

 ↓ 不安定な天気の名残で、時おりガスがかかる。たいした急登ではないが、やはりヨレヨレになる。

 

 

 ↓ とにもかくにも山頂にて。私以外の人は元気。

 

 

 ↓ 頂上近くの権現池。おおらかな山容の乗鞍岳にはいくつもの火山性の支峰や池が点在している。それらをのんびりと巡り歩いたら、さぞ気持ちが良いだろう。

 

 

 ↓ 下山途中。宇宙線研究所観測所への道路にて。先行するKの後姿。もっと絵になる良いシーンもあったのだが…。いつか絵にしてみたい構図。

 

 

 ↓ 天候に、各種の天気予報に振り回された三日間だったが、なんとかその隙間をかいくぐって、快適な山行ができた。青空に感謝。

 

(記・FB投稿:2022.9.14)