艸砦庵だより

河村正之のページ 絵画・美術、本、山、旅、etc・・・

小ペン画ギャラリー‐30「今年になってからの近作」 

 前回の「小ペン画ギャラリー」を投稿したのが昨年11月23日だから、5カ月近く空いた。ありゃま?そんなに経ったっけ?という、日々の流れ。

 ということで「近作」だが、①今年になってからの作品から、②女房が選んだもの、というのが条件。

 1月のペン画の制作(開始)点数は0点、2月は12点、3月は13点、4月は選んでもらった時点では0点。実際には昨年度末に描きだし、今年になってから完成したものも含まれているから、つまり30点ほどの中から選んだもの。多少、傾向とバランスは考えているのかな?以下、御照覧。

 

 蛇足ですが日々、タブロー(下描き・下絵程度ですが)・ペン画(まあボチボチと)の制作と、その他、研究と勉強を毎日元気にやっています。

 

 

640 「その星座があらわれるとき…」 

 2022.12.25‐2023.1.19 16.1×18.8㎝ アルシュ紙にアクリル・ペン・インク

 

 これと次の作品の紙はずいぶん前、おそらく20年かあるいはもっと前に、何か意図あって黒いアクリル絵具で下色をほどこしていたものの、結局制作には至らず、捨てもせず、何となく保存していたのを引っ張り出して小さく切り分けたもの。なんせ強すぎる下彩なので、普通の扱いと絵柄では使いようがない。思いついてサンドペーパーをかけて、紙の白さを削りだしてみた。そこに現れたニュアンスから、ようやく描きだすことができた。

 星座(?)、冬の大三角とか夏の大三角とか、実際にあれがそうだとわかるわけではないのだが、そんなイメージがあったようだ。

 

 

642 「虚空に黒い結晶体が浮上し…」 

 2022.12.31-2023.1.19 13×18㎝ キャンソンラビーテクニック紙(?)にアクリル・ペン・インク

 

 技法的には同前。予定では図形の輪郭線を可能な限り細い線で描くはずが、紙の白さが出るまでサンドペーパーをかけるというのは、結果として紙の表面を荒し、けば立たせるということであり、その結果インクが滲み、イメージしたような極細の線は引けなかったのである。技術的限界。今から見ればもう少しやりようはあったかもしれないが、まあこれはこれで。

 しかし「暗夜に浮上する巨大な結晶体」というイメージはなかなか美しいのではないだろうか。

 

 

643 「天王‐おおきみの継承」 

 2023.2.8‐21 20.9×14.7㎝ 洋紙に水彩・ペン・インク

 

 歴史的、民俗学的イメージから。たぶん中沢新一あたりのどこかの文章からインスパイアされたもの。

 「てんのう」がまだ「天皇」ではなく「大王/おおきみ」などと呼ばれていた頃以来の、新嘗祭大嘗祭に象徴される食物神、生産神としての「おおきみ」の機能と役割、そしてその継承についてのシャーマニズムを内包する意味合いを絵画化したもの。などと記すと、「記紀」も通読していないくせに、ずいぶん大それたことを言うようにも思えるが、案外こうしたイメージなのではないかとも思う。

 

 

647 「アルカイックな二人‐惜別」 

 2023.2.18‐24 12.3×8.9㎝ ワトソン紙にアクリル・ペン・インク

 

 直接的には上州だったか相模だったかの、素朴な双体道祖神の図版が出発点になっている。東国から防人(の歌=万葉集)などを連想し、「惜別」・「別離」・「村境の恋人たち」などといったタイトルのこんな感じのものを3点描いた。素朴さからはギリシャやトルコの博物館で見たエトルリアアナトリアあたりの古雅な人体像、墓標(?)などを連想し、「アルカイック」。

 

 

660 「悲嘆のうちに春をまき散らす」 

 2023.3.16‐25 13×18.9㎝ キャンソンラビーテクニック紙に水彩・ペン・インク・色鉛筆

 

 春は、ボッティチェリの「プリマベラ」をはじめ、再生や誕生といったことをテーマとした多くの寓意画が描かれている。春をもたらすのは地上のヴィーナス。正確に言えばローマ神話ではなく、出自としては植物神・豊穣神・地母神であるところのギリシャ神話のアフロディテである。

 ウクライナにもロシアにも春は来る。アフロディテが歩むその足元からは花が咲きはじめるが、悲しいことに空にはミサイルが飛びかっている。

 

 

665 「降りくるもの」 

 2023.3.23‐30 14.9×10.5㎝ 洋紙にセピア・ペン・インク

 

 普通絵とは全く無関係だと思われている宇宙論的なもの、ビッグバンとか、膨張宇宙説とか素粒子論といったものが私は案外好きで、そうしたものからインスパイアされた作品を時々描く。

 ブラックホールもその一つで、その中でもビッグバン直後に発生し大多数は短時間のうちに蒸発したが、ごくわずか現存するとされるマイクロ(ミニ)ブラックホールのイメージ(?)などに心惹かれ、こんな絵ができた。ホール(穴)というより球にしか見えないが、まあよい。このあと立て続けにこのような黒い球体の絵を何点か描いた。今後もまた描きそうな気がする。

 余談(でもないか?)だが、全面に使っているのは、天然の烏賊墨から作ったセピア(市販)。使い始めてい1年以上経ってふと見ると、インク壺の中にカビのコロニーがブヨブヨと大発生。烏賊墨からセピアを自製している知り合いの画家もいるが、やはり保存状態ではこうなるのか。もう捨てるしかないのだが、ちょっと違う容器に移して薄めて霧吹きで紙に吹き付ける。どうか作品にカビが生えませんように。

*セピアインクに限らず、原理的にあらゆるモノにはカビが生えうる。せいぜい防カビ剤を使用するべきだとは思います。

 

 

666 「苔の花咲く帽子をかぶったアカデミックな詩人」 

 2023.3.28‐30 14.5×10.9㎝ 中性水彩紙に水彩・ペン・インク

 

 特にきっかけも出典もない世界。しいて言えば、アカデミズムということと詩人ということの、相容れないはずの、アンビバレンツというか矛盾を茶化しているようなものかな(?)。現実には最も自由な精神の持主であるべきでありながら、勲章や肩書を欲しがる芸術家が多いということは否定できないし、特にそのことを批判する気もないのではあるが。ちょっと気取って取り澄ました詩人像を描いてみたかったのかな。

 

(記・FB投稿:2023.4.12)